ボクが言いたいこと
「みどう君、そこのタオルも取って」
洗濯物の入ったバスケットを片手に持って、空いた片手でちょいちょいと手招きをされた。ボクを扱き使うなんてたった一人この女しかおらん。ハァ?なんでボクが取らなあかんの、自分で取ればええやん。そう言ってもその強気な目つきは変わらないまま、その女は早く、とただ催促した。
「ありがとう」
さっきの表情と真逆の笑顔にすぐさま体を背けた。そんな顔ずるいわ。ボクが苗字さんの言う事を仕方なしに聞いてしまう理由はもう自覚しとる。不本意やけど、この強気な女がボクは嫌いやなかった。
「苗字さん、それ取って」
「…先輩をパシるなんてみどう君ぐらいよ」
「一つしか変わらへんやん」
「高校生の一つ差は大きいの!」
キモ。そんなん一緒やろ。一年早く生まれただけやのにボクをガキ扱いするんが気に入らん。…見てみぃ、背ェなんかボクの肩より小さいやんか。そんな高い位置に置かれた器具、取れるわけないやん。一生懸命つま先立ちしても無駄やで。ほんでそんな苗字さんの背後に立って、お目当ての物を取ってあげる自分にも嫌気が差すわ。今までで一番近場で苗字さんの笑顔を見てボクの心臓はどうかなりそうやった。
「…何か顔についてる?」
「別ぅに。自意識過剰なんと違う」
むぅっと口を尖らせてボクの髪をくしゃくしゃと乱した。…ほんま、そういう所やで。ボクが君を嫌いなんは。
「あ、そうだ。みどう君も食べる?シュークリーム。石垣先輩から差し入れでもらったの」
「ハァ?そんな甘ったるいもん食べんわアホちゃう」
そう言ったにも関わらず目の前でシュークリームを食べ始める。
「口拭きや。ついとるで」
「え、うそ」
自分の指でクリームを拭うとそのまま口へ運ぼうとするのを横取りする。ベロリ。その華奢な指ごと食べてしまいそうやった。
「あっま。こんなもんよう食べれるな」
「…みみみみみどうく」
「喉渇いた、水」
張り切ってパシられる苗字さんを見てやっぱり嫌いやないなと思った。
'140412
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