しゃっくりの止め方

「ひっく」と突然変な音がした。翔のほうを見てみると素知らぬ顔してよそを向いているものだから空耳かな、とあたしも再びケータイに目を戻した。すると視界の中で翔の肩が跳ねるのに気付いた。

「…翔、しゃっくり?」

話しかけると無言だけど明らかに不機嫌そうな顔をしていた。もう一度「っく」としゃっくりを我慢しようとする。思わず笑ってしまうとギョロリと睨まれた。

「ごめんごめん。キツイよね、しゃっくり」
「メチャうっとおしいわ」

翔もしゃっくり出ることあるんだ。そう思ったのは心の中でとどめた筈なのに「名前ちゃん今失礼な事考えてへん」となぜか見透かされてしまった。いくら経ってもしゃっくりは止まらず、翔がだんだん苛ついてきた。不意に立ち上がって翔に近付くと、への字に曲がった口を塞いでやった。すぐ外すと真ん丸お目目が驚いてあたしを見ている。

「な、に…」
「しゃっくりを止める方法。キスしたら止まるんだよ」

勿論、そんな根拠はなく真っ赤な嘘である。賢明な彼はすぐ「しょーもな」とか言うのだろうと思ったが、意外にもほんまや、と驚いている様子だった。

「止まった」

どことなく嬉しそうな翔。そんな彼に良かったね、としか言えずあたしはすぐにまたケータイを弄りだした。

「ひっく」

…また始まった。翔を見ると多分あたしと同じ心境なのだろう、深いため息をついた。

「名前ちゃん」

なに、返事する間もなく不意打ちキスをされた。不覚にもドキッとしてしまっては「どうしたの?」と聞くと何も答えずそのまま黙り込んでしまった。

「…っく」

また再びしゃっくりが出ると腑に落ちない顔をしていた。翔、自分からキスしても意味ないよ。そう言うと「ピギ」としゃっくりではない変な音が聞こえた。

「名前ちゃん、チューしてや」
「えっ…」
「止まらへん」

ジィ、と見てくる翔にまた胸がときめいた。仰せのままにキスをするとまたもや上手いこと止まったみたいでどこか上機嫌だった。可愛いからしばらくは黙っておこう。

「本当はね、アレ嘘だったんだ」

翔が機嫌を損ねてしばらく口を利いてくれなくなるのは少し後の話。


'140324 pike


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