許してくれよダーリン

カチン、とお互いの歯が当たった。痛い。そう言葉に出す余裕なんてなくて翔の長い舌が私の歯の隙間を割って中に入ってきた。息が上手く出来ずにギュウと翔の首に手を回すとそれ以上の力で腰に手を回してきて「鼻で息しいや」と言われた。ここでやっと満足に呼吸ができる。

「どう、したの?」
「別にィ。名前ちゃんとチューしたなっただけやし」

じっとりと翔の目を真正面から見上げると、まるで隠し事がバレるのを恐るかのようにあからさまに視線を逸らした。

「…何かあったの」
「何もない言うてるやろ、うるさいで」

その物の言い様に苛立ちを覚えて翔の両頬をつまんで潰すとペチンと払われた。これは不機嫌だ、恐らく。考えてはみたものの思い当たる節がなくて「ねー翔」と少しばかり甘えた声を出すと盛大に溜め息をつかれた。これで許してくれなかったことは今までに、ない。

「…昼どこ行ってたんや」
「昼?ミキちゃんと食堂」
「ボクをごまかそう思っても無駄やで」

次は私が視線を外す番だった。えー何のこと?ニコニコしてみるとまた翔から乱暴で冷たいキスをされた。ごめん、ごめんって。必死に引き離そうとしても大きな体は覆い被さっていて、そう簡単にはいかなかった。

「…っあき、翔!」
「知ってるで。やましい事があるからそうやって嘘つくんやろ」
「違う、から」
「なら何なん。言うてみ」

そこで黙るとホラな、と翔は呆れた。今までゼロ距離だったのに次第に離れていく。本当はやましい事なんてないんだけど、言えない。でも翔を怒らせてまで黙る事かと少し考えると…多分、そうでもない。随分と距離を取られた翔の背中に小さな声で話した。

「告白されたんだよ…5組の人に」
「ああ、あのブタやろ」

見てたんじゃん。私わざわざ話す必要ないのでは。「で、何やのそれから」私のほうなんて全く見ないまま冷たく言われた。ああもう完全に機嫌を損ねている。

「このことは誰にも言わないでって言われたから」
「フーン…で?」
「で、って…それだけよ」
「ハァ?名前ちゃん何て言うたんそのブタに」

ブタって言わないであげて!確かに少し筋肉が落ちて脂肪に変わったような体型してるけど。告白の返事なんて当然断った。だって翔がいるでしょ、そうでしょ。

「好きな人がいるから、って断った」
「…フゥン」

聞いてきたのそっちでしょ。翔の掴めない心情にハテナを浮かべていると今度は優しいキスをされた。なんだかわからないけど機嫌は直ったらしい。

「許してくれた?」
「もとから怒ってへんし」

ありがとう。背伸びをして頬にキスすると「足りんわ阿呆」と顔を下げて唇を奪われた。そこでやっと、翔が嫉妬していたことに気付いてとても愛しく思えた。


'140319 pike


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