段階フェイズ3. 短所は長所

「最近さぁ稜子、御堂筋くんと仲良うしてるよなぁ」
「うん。席が隣なんだー」
「…私、もし御堂筋くんが隣の席やってもよう話さんと思うわ」

お昼ご飯を一緒に食べている友人にそんな事を言われた。あんた一年の頃からそうやんな、近寄り難い人にも平気で話しかけて…と自分では特に意識していなかった事を、友人は軽い思い出話として持ち出してきた。御堂筋くんは確かに大人しいけれど、話し掛けると二回に一回はちゃんと受け答えをしてくれる。そう弁明すると、友人は「じゃあ二回に一回は無視されてんのやね」と返答されて私は全く反論できなかった。

「そういや、自転車部に入ってたんとちがう?御堂筋くん」
「え、帰宅部じゃないの」
「ちゃうよ。確かそうやった気ぃするわ」

意外や意外、頭の切れる彼が運動部に所属していたなんて。勉強も出来てそれに加え運動も出来たなら私はきっと神様を恨むだろう。その意外な情報に口をぽかんと開けていると、次に何故そんな事を友人が知っているのだろうという疑問を持った。聞けば去年は御堂筋くんと同じクラスだったようで、その頃からどこかミステリアスな雰囲気を醸し出していた彼についての情報は、自ずと耳に入ってきたとのことだった。確かにミステリアスという言葉は彼によく当てはまる。だからこそその素性が知りたくなるし、何かひとつギャップなるものを見つけられないかとも企んでしまうのだ。友人はそんな私に「好奇心を拗らせてる」と悪態をついた。

友人は弁当を空っぽにすると、先生に呼ばれていると言って教室を出て行き、私は一人になってしまった。このまま違うクラスに居座るのも気が引けたので自分の教室に戻ると、たった今話題になっていた御堂筋くんと対面した。…目を逸らしているがきっと私の視線に気付いている。心なしか私に話し掛けられまいと距離をとっているようにもとれた。そんな事はお構いなしだ。ねえ、御堂筋くん。確実に相手に聞こえるような声量で話し掛けたのにことごとく無視されてしまった。ここまでの流れは想定内だ。そこで私は無理やり彼の視界に入ってやると「なんやの」とその重力に半分負けたような目を私に向けた。

「自転車部に入ってるって本当?」
「…誰が」
「キミだよキミ。ねえ本当なの?」
「…キミには関係ない、やろ」

御堂筋くんは決まって窓際の席に座っていて、きれいに食べ終えたその弁当箱を重ねて巾着袋にゆっくりと仕舞った。ごそごそと机の横に吊り下げているセカンドバックの中にその袋を入れる様子を、私は横でじっと眺めるようにして見ていた。


「ねえ、お昼ご飯いつも一人で食べてるの?」

お前はまだ喋るのか、とでも言いたげに御堂筋くんは眉をひそめた。ああ、うざいんだろうな私。でもここで引くことはできない。友人が今日言っていた小さな思い出話が脳裏に浮かんでは、ねえねえと私はしつこく彼に話し掛けた。「近寄り難い人でも平気で話し掛ける」…友人のあの言葉が決して褒め言葉ではないことは分かってはいるけれど。

「せやけど」
「寂しくない?」
「…そんなん思ったことないわ」
「うーん…御堂筋くんって変わってるよね」

前から思っていたけど。そう付け足すと御堂筋くんは机に頬杖をついたままこちらを向いた。またもやその大きなお口が惜しげもなく開いている。何か言いたいのかなと彼からの返答を待っていると「キミィ…」とぼそりと呟いたので、なんとか聞き取ろうと耳を近づけた。

「変わってる、て言われるやろ」
「え?私?まぁ…たまに」

予想外の質問にたじろいで、頬を人差し指で撫でながらそう答えた。すると御堂筋くんはそれきり黙り込んで5限目の準備を始めた。え、終わり?てっきり何か続きを話すのだろうと思っていたのに彼は何食わぬ顔でノートを眺めている。

「お昼、一人ならさ。一緒に食べようよ」

ノートに書き込んでいた手が止まり、シャープペンシルの芯が折れる音がした。途端に彼は勢いよく隣の私を見て、その表情はとても驚いている。

「ハ…ハア?なん、でキミィと仲良く食事せなあかんの」
「いいじゃん、仲良いんだし」
「……ほんま、厚かましい程度やないで」

そう言ってノートを傾け、乗っかったシャープペンシルの芯を床に捨てていた。だめかと聞くと「イヤや」と即答された。こんなに早い返事は初めてだ。次の授業の先生が教室に入ってきて周りの生徒が席に着き始める中、私はがっくりと肩を落として机の上に頭を伏せていた。しかし私はすぐに新しい考えを思いついて机に頬をつけたまま「じゃあさ」と隣の彼に顔を向けた。


「今日、練習見に行ってもいいかな?」

私との会話に早くも耐性がついたのか、はたまた聞こえなかったふりをしているのか。返事はなく拒否する様子もなかったので、私は一人満足してようやく上体を起こした。


141203



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