段階フェイズ1. そこは窓際の特等席

高校三年目の春。進路別のクラス替えで、私はどうにか国公立進学クラスに配属された。仲の良い友人とも離れてしまい、すっかり慣れた京都伏見の学校でまた一から友達を作らなければいけないとなると、少しだけ憂鬱だった。
どこか緊張感の漂う教室に足を踏み入れると、さすがに成績上位の生徒ばかりというのもあって皆落ち着いた子ばかり。…それに物理選択のクラスだから、女子の数が圧倒的に少なかった。誰か馬の合いそうな子がいれば話しかけたくて堪らなかったのだが、初日からはしゃいで浮いてしまうのは気が引けたので、ここはひとまず様子見とすることにした。

私の席は一番後ろ、窓際から二番目のなかなか好位置だった。ただ、出席番号順で決めたのならこの位置はおかしいのでは。すると教壇に立った担任の先生が笑顔で何やら楽しそうに自己紹介を始めた。

「はぁい皆さん初めまして。川崎くんは二年連続ですねぇ、よろしくね」
「ちなみに席順は、先生が昨日の夜に一人でくじ引きをして決めましたぁ」

フフフ、と一人楽しそうに顔の前で合掌して体をくねらせている先生は学内でも有名な不思議先生だ。先ほど名指しで呼ばれたカワサキくんという男子は恥ずかしそうに俯いている。他の賑やかなクラスだったらドッと笑いが起こるのだろうが、このクラスだと虚しくも静まり返ってしまった。こほんと大きく咳払いをした先生が少し惨めに思えた。

このクラスで初めてのホームルーム。先生は一切空気を読まずに、各自となりの席の人と自己紹介をするようにとやけにハードルの高い注文を押し付けてきた。周りの生徒は皆そわそわし始めるが私は特に抵抗もなかったので、くるりと隣の席の男の子のほうに体を向けて話しかけようと体勢を変えた。そこで初めて私のお隣さんに意識をむけたのだが、男の子はずっと窓の外を眺めている。

「ねえ」
「……」
「自己紹介するんだって、聞いてた?」
「……」
「ちょっと、キミだよ!キミに話し掛けてるの!」

私はむっとして食い気味にそう言うと、男の子は私から身を守るように体を窓際に寄せて、目だけを私のほうに向けた。ぎょろりとした大きな黒目。一瞬たじろいで思わず身を引いてしまったが、その目もすぐに逸らされてしまい再び彼のほうへ体を傾けた。お世辞にも感じが良いとは言えない。いくら待っても返事がないので私はしつこく「ねえってば」と催促してみた。

「御堂筋」
「えっ…あぁ、えっと、下の名前は?」
「…翔」
「御堂筋くん。市川稜子です」

よろしくねと付け足すと、最後にかけた言葉に対しての返事はなかった。少し人見知りを拗らせているのだろうか。愛想の欠片もない反応にムッとして半分やけになった私は、御堂筋くんのほうに体を向けたまま「趣味は?」「特技は?」「中学はどこだったの?」と怒涛の質問責めを繰り出すと、物の見事に全てかわされてしまった。そこでタイミングがいいのか悪いのか、先生が手を叩いて止めの合図を出したので、私は腑に落ちないまま体を教壇のほうへと向け直したのだった。


「よう喋るわ」

…今、何か言っただろうか。隣の御堂筋くんがぼそりと呟いた気がして振り向けばふいっと顔を逸らされた。本当に、感じの悪い人だなぁ。


141106



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