君に抱く感情



部室に着くと石垣くんがいた。電話片手に誰かと話しているらしく、珍しくヘラヘラとだらしない顔だった。受話器から微かに聞こえた声は高くて女の声、やった気がする。石垣くんはボクに気付くと「じゃあな、切るで…ああ、ありがとう」と丁寧に電話を切った。

「悪いな…御堂筋、くん」
「別にええよ、部活まだ始まってへんし」

どこか上機嫌な石垣くんをじいと見ているとなんや?と気づいた様子で笑顔を向けてきた。キモ。

「…それ、」
「?…電話か?」
「石垣くんもアレか。色恋沙汰に振り回されとる猿か」

そう言うと石垣くんは一瞬フリーズしては「あ、ああ。……え?」とえらい驚いていた。

「まあ、さっきの電話、彼女やけど…。も、てまさか。御堂筋…お前付き合うとる人おるんか!!」
「…なんでそうなるんや阿呆かキモいわ」

何故か一人盛り上がっとる石垣くんを前に大きく溜息をついた。「そうか…」と次は落ち込むからなんや忙しい奴やなと思った。

「…振り回されとるんは他の子や。ボクとちゃう」

今日のボクはどうかしてるわ。石垣くん相手に何話しとんのやろ。ほら見てみ、とんでもない光景を見とるような目しとるやないか。そんな事を冷静に考える脳みそがありながら、この口は言うこと聞かずにわけも分からんことを言うとる。

「他の女にもベタベタするような猿と付き合うなんて阿呆のすることやわ。ボクの言うとる意味も分からんほどあの猿を好いとるのも理解できん」

石垣くんは何のことを言っとるのか分からんのやろ、頭にハテナ浮かんでそうな顔しとった。しかしすぐに「今日の御堂筋は饒舌やな」と言ってきたのでとりあえずうっさいわボケと返したった。キモキモキモ。ボクは何をザクに人生相談なんかしとんのや。ボクに分からんことをザクに聞いても分かるわけないやろ。本当に、最近は自己嫌悪に陥ることが増えた。多少苛つきながら手早く着替えを済ませていると、ふと石垣くんが口を聞いた。

「はは、なんや…振り回されとるようやな御堂筋」
「…ハァ?言うとる意味が分からんわ」
「せやな。…でもなぁ御堂筋」

俺には御堂筋が、その子のことを好いとるようにしか聞こえんかったけどなあ…。そう言ってボクのほうをちら、と見てきた。ピギィ。ボクは返す言葉が見つからず視線を逸らすことしかできんかった。「まあ、…それはないか。はは、変なこと言ってすまんかったなー」と罰の悪そうな表情で部室を出て行った。ボク、が名前ちゃんを好き、やと。知らん知らん知らん。そんなこと知らんで。いや、知っとるわ。恋心、いうやつやろ。知っとるでロードで一番いらんやつやろ。そんなもん、このボクが…御堂筋翔くんがするわけない。

「でも、や。万が一、億が一、…仮にや」

そうやとしたら。一番阿呆なのはボクのほうかもしれん。あんな猿の側で笑っとる名前ちゃんを好きな、このボクが。するすると手元が緩んで地面に落ちたヘルメットに気付いたのは数秒後だった。


140215



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