純粋で愚か故に



夢を見た。女の子が泣いている夢。なんで泣いてるん、そう聞くと何か言ったような気がしたが聞き取れなかった。そこで途切れて朝を迎える。たったさっきまで見ていた夢の内容はもはや思い出せない。ボクはもそもそと布団から出るとリビングへ向かった。

外に出るとじりじりと照る太陽がボクの肌を刺激した。高校入学して初めての夏。インターハイが迫ってくるのに比例するように、蝉の鳴き声もうるさくなっていく。
今はちょうど中間試験前で授業がいつもより早めに終わる。名前ちゃんがこの間、勉強を教えろと言ってきたので、部活始まるまでやったらという条件で教えることになった。

「なんでボクなん。」
「だってみどうくん頭良いじゃん!」

名前ちゃんかって頭悪ないはずや。そう言うと始期考査学年一位のみどうくんには勝てないよ、と笑って言った。…そうやったか。自分でも忘れていた。どうやら試験の順位は掲示板に貼り出されるらしい。褒められる相手もおらんやったものだから、そんな事も知らないでいた。図書館に着くと試験前というのもあって先客が何人かいた。

「どこが分からんの。」
「数学ーこの間の授業の応用がどうしても解けなくて。」

ボクのすぐ横に座る名前ちゃん。はい、と渡された問題はなるほどボクも少し解くのに時間かかったやつやった。胸ポケットに差し込んでいたシャープペンシルに手を伸ばして「書くで」と一言前置きして用紙にカサカサと書き込んでいく。横で覗き込んでくる名前ちゃんからほのかに香る匂いは作られたもので、すぐにそれが香水と分かった。
解き終わった用紙を無言で渡すと、数字の羅列を見てうーんと悩み始めた。いくつかの質問に答えると理解したみたいでスッキリした様子やった。やはり飲み込みが早く、頭が悪いわけではない。ふと、いつも付けていない前髪に光るものに目が行った。

「何やそれ。」
「ああ、これ?ヘアピン!この間彼氏にもらったんだー」

えへへ、とだらしなく頬を緩める。何故かそれが気に食わなくて、「ほうか。センスないな、全然似合ってへんよ。」と憎まれ口をたたいた。名前ちゃんは一瞬面をくらった様子だったがすぐに眉をひそめて「そんな言い方しなくてもいいじゃん、気に入っているのに。」と反論してきた。

「ソレだけやない、あの男も似合ってへんよ。あんま群れるのやめときや。」
「…あたしが不釣り合いって言いたいの?」
「そう聞こえたならそうなんとちゃう。」

バサバサとプリントをまとめるとガタンと立ってボクを見下ろす。すごく不機嫌な様子で「みどうくんにそんな事言われるとは思わんかったわ。」と冷たく言い放つと部屋を出て行った。
腹立ってるのはボクのほうや。喋れるやん、コッチの言葉。いつもの標準語はどこいったん。時計に目をやると部活まであと30分も余裕があったが、部室へ向かった。いや、待て。ボクは何に腹を立てとったんやろか。そら、あの猿が気に食わんのは前からや。…なんや、これが名前ちゃんに対するユウジョウいうやつか。くぅだらん。世のザクはこんな苛々した思いして友達いうのと連んどるんか。ボクは途端に阿呆らしくなって自分自身を嫌いになった。


140214



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