煩悩



それから名前ちゃんが毎日、特定の猿と一緒におるのを知った。自覚あるんかないんか、あの時の、くだらん猿共と大して変わらんような奴や。名前ちゃんは阿呆になってしまった。無意識に眺めとったんか、名前ちゃんがこっちに気付いて手を振る。ボクは条件反射で目を逸らしては左手を少しほんの少しだけ挙げた。

「みどうくんおはよう!」

笑顔の名前ちゃんとは裏腹に隣の猿はしかめっ面でボクを見てた。なんや用があるのはお前とちゃうわ。そのまま挨拶の返事もろくにせず教室に入ってった。

今日もつまらん授業が始まる。教科書に書いてあることをわざわざ口にして説明せんでも分かるわ。くだらん。ぼうっと外を眺めては今日の部活のメニューを頭の中で組む。時々名前ちゃんとあの猿の姿が脳裏に浮かんで嫌気が差した。

放課後、石垣くん達に今日のメニューを伝えると団体練習開始まで体を温めに辺りを周回することにした。最近のボクはあかん。部員の誰よりも速いのは変わらないが自分の中では納得できるような結果が出せていない。キモキモキモ。あかんで御堂筋翔くん。ボンノウに負けたらあかんよ。そう何度も自分に言い聞かせてはペダルを踏む力を強めた。

ちら、と何となくそこら辺の男女に目が言った。公衆の面前でベタベタしやがって恥ずかしないんやろか。阿呆らしい。男女のすぐ側を横切ると、ふと見覚えがある感覚に陥った。どこかで、見たことあるような。

「…何、しとんのやあの猿は」

そう、今さっきの男は紛れもなく名前ちゃんの隣にいつもおる猿やった。何ややっぱりただの発情期の猿やんか。阿呆らしい。あんな奴を選ぶ名前ちゃんはもっと阿呆や。学校に戻り、全体でスタートを切る。

「御堂筋、今日は一段と速い、な…」
「くん、や。呼び捨てせんといてくれる?」

ああ、悪かった御堂筋くん。そんなザクの言葉も聞こえなくなるくらい、ペースを上げて行った。名前ちゃん、迷惑やよ。ボクの走りをこんなに乱して君は一体何がしたいんや。らしくもなくボクは自身の不調を人のせいにした。


140214



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