懐かしい色



昨日のあの子は本当にボクの知っとる名前ちゃんやったんやろか。まだモヤモヤとはっきりしないまま朝の校門をくぐる。まだ慣れない下駄箱に靴を入れると、「おはよう、御堂筋くん!」と後ろから声をかけられた。水田くんや。なんや挨拶なんかキモいな。当然返事なんかせんと教室に向かおうとすると目の前に女の子が突っ立っていた。

「やっぱりそうだ…みどうくん」
「……名前、ちゃん」

驚いた。六年前に突然消えたあの子が目の前におるから。当時と比べて幾分か大人びていて、でもどこかあどけない。容姿は変わらず整っている。

「変わらないね」
「名前ちゃんは小さなったな」
「ふふ…みどうくんが大っきくなっただけだよ」

口に手を添えて笑う姿はやっぱり品があった。何か決定的な違和感を感じたのは、彼女から方言はすっかり抜けてしまっていて、標準語になっていることだった。クラスに向かう途中まで並んで歩いていると、じゃあねと足を止めた先はボクのクラスと隣やった。こんな偶然あるんやな。それから、ずっと後ろからついて来てるのバレとるよ、水田くん。

そしてある日の掃除の時間。かったるくて廊下辺りをぶらぶらしてると、「みどうくん!」なんてトーンの高い声が聞こえたから振り向くと名前ちゃんが笑顔で駆け寄ってきた。

「自転車続けてるんだね!」
「なんで知っとるの」
「えっとね、…彼氏が言ってたの」
「……」
「彼、野球部でね、外周する時に見かけるんだって、みどうくんのこと!」

細くて長くて目がギョロッとしてて襟足が長いのってみどうくん以外いないから!とか失礼すぎるとちゃう?「ほうか」なんて素っ気ない返事をすると名前ちゃんは大きな目をぱちぱちしていた。
ボクの知っとる名前ちゃんは、色恋沙汰なんかに振り回されたりせんはずや。名前ちゃんは変わってしまった。いや、変わってないのがボクなんか。どちらにせよ何にも面白くないわ。早う学校終わらんやろか、今はなんだか無性にペダルを漕ぎたい気分や。


140213



人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -