肌で感じた



それから、ボクは名前ちゃんとちょいちょい話すようになった。最初こそあの煩い猿共に冷やかされたが、相手がクラスのマドンナやから次第に皆なんも言わんようなった。そんなある日、名前ちゃんは急にボクの前から消えた。親の都合で東京に転校するらしい。今日いきなり担任の先生に聞かされたもんやから、なかなか信じられんかった。昨日まで普通にしゃべっとったのに。なんで何も言ってくれんかったんやろ。次の日もその次の日も、名前ちゃんがボクの前に現れることはなかった。一年先も、二年先も。こうやって、人間は過去のことを忘れていくんやろなって思った。

あれから六年。ボクは地元の高校に入学した。自転車はずっと続けてきたから、当然の如く自転車競技部の部室に足を運んだ。

「ハアッ…ハアッ…なんでや…」
「約束はちゃあんと守ってもらうで」

部長の石垣くんと駆け勝負してボクが勝った。当然や。今日からこの部活はボクの為にインターハイに出てもらう。そう言い残して一人で学校周辺を走ることにした。これからの練習メニューを組むのに、周辺の道を把握しとかなあかん。そう思って自転車に跨り校舎を飛び出す。適当に周回してはどういうコースを走るんがいいか考えて、また校舎に戻る途中だった。

「…でね、そのー」

一瞬風が、止んだ気がした。その子とすれ違った時確かに胸が騒ついた。思わず足を止めて振り返る。同じ制服の女子学生が二人、並んで歩いている。こっちを向いてほしい、ボクの思いが通じたのか一人がゆっくりと振り向く。

「どうしたの?…名前」

やっぱそうや。ボクの知っとる名前ちゃんや。遠目でよく見えんやったけど、絶対そうや。しかしそこで話し掛けに行く勇気はなく、またペダルに足を掛けて漕ぎ出した。

「…そんなわけないよね。ううん、なんでもない!」

きっと彼女はもうボクのことなんか忘れているのだろう。


140212



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