天邪鬼のあやし方



翔君と喧嘩をした昨日の放課後。小一時間外で一人で待っていたというのに、理由もわからず怒っていた翔君に反抗した。いわゆる逆ギレというやつ。その時はただムッとして口も聞きたくなかったけど、寝て起きたら幾分か冷静になった自分がいた。何故翔君は機嫌が悪かったのだろう。部活で何かあったとしても、それをあたしに八つ当たりする人ではない。磨きがかかった天邪鬼だけど、なんだかんだで純粋で優しい人だ。…多分。
ふと廊下で翔君とすれ違う。おはようの一言だけでも交わそうかと口を開いた途端、あからさまに顔を背けられた。…おかしい。これは、きっとあたしが何か翔君に悪いことをしたに違いない。気付けば自分に非がある前提で、どうしたものかと考え込んでいた。

「名前さん」
「…あ、小鞠君」

考え事をしていた最中に小鞠君から話しかけられた。あまり元気ないですね、どうしたんですか。そう言って心配そうに顔を覗かれてはまるで心を見透かされたようでドキリとした。

「実は、翔君と喧嘩しちゃってさ」
「…珍しいですね」

何で怒っているのか分からないんだよね。深い深いため息をつくと、「御堂筋さんやめて、ボクにします?」と眩しい笑顔で言われた。

「小鞠君、ありがとう。はぁ、なんで怒ってるんだろう」
「………」
「ほら、校門で小鞠君と話してたでしょ、その時からずっと怒ってるの」
「名前さん、それはきっと」

御堂筋さん、ボクに嫉妬してるんだと思いますよ。半分呆れたようにそう言われて、思わず聞き返した。嫉妬?翔君が?だって、小鞠君と話してただけでしょ。…それだけで機嫌が悪くなるものだろうか。ううん、とまた考え込むと小鞠君に「名前さんは殺人的に鈍いですね」と言われてしまった。

でも、確かに他に理由が見当たらない以上はその線が濃厚ではある。…翔君に謝ろう。そう決心してから行動に至るまでは早かった。昼休み、廊下を歩いているとゆらゆらとこちらへ向かってくる翔君が見えた。

「翔君!」
「…今名前ちゃんのカオ見たないー」
「ごめん、ごめんね。あたしが悪かったよ」
「キモォ…理由もなしに謝るん?キモいで」

唇を尖らせて完全に拗ねてしまっている翔君。何がそこまで気に入らなかったのか詳しいことは分からないけど、あまりに子どもっぽいものだから苦笑してしまった。

「こ、小鞠君と話すのがいけなかったんだよね多分。違う?」
「ハァ?なんでボクが小鞠に妬かなあかんの。キーモー」
「えっ違うの?」
「ちゃ…うし」

あたしとろくに目を合わせないまま顔を真横に逸らされた。翔君の顔を見たくて下から覗き込むとそれから逃げるようにまた逸らす。少し伸びた黒い髪から覗く耳がほんのり赤くなっていた。

「翔君…かわいい」
「ハ、ハア?何言うとんの?名前ちゃん阿呆なん?」

また少し不機嫌になった翔君の大きな手を自分の頬に重ねる。頭上からピギ、と何か潰れたような声がした。

「ごめんね翔君」
「…ボク優しいから許したるわ」

すっかり機嫌が直った翔君があたしの頬を柔くつまんだ。


140713



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テーマ「人外ファンタジー」
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