売り言葉に買い言葉



最近の小鞠はよく名前ちゃんに突っかかる。名前ちゃんもさすがに対応に慣れてきたんか、この間なんか小鞠クンなんて呼んでて吐き気がしたわ。その呼び方止めや、言ったら「どうして?」と小首を傾げられた。その可愛らしさも今だけは腹立たしいわ。何で、なんて言わんでも分かるやろ。本気で言うとんのやったらちょっと鈍すぎと違う。そう心の中で葛藤しても、小鞠と仲良くしてるのが気に入らんとかそんな正直はよう言えんやった。

「え、知らんやったん?御堂筋くんと苗字さん、付き合うとるんやで」
「そうなんですか」

少し離れたところで水田クゥンと小鞠が何やらコソコソしてるみたいやけど会話の内容までは耳に入ってこんやった。刹那、小鞠と目が合った気がしたがその一瞬では表情は読み取れんやった。別ぅに知ったことちゃうし、ええんやけど。

「御堂筋さん…先輩」
「なんや最近キミィの顔見ると腹立つわ」
「名前さん奪ってもいいですか?」
「…人の話聞きい」

しかも奪ってもええか、てなんやの。阿呆なん?ええわけないやろ。名前ちゃんはボクの事が好きなんよ、キミィの事なんかこれっぽっちも好きやないわ阿呆。…と口に出せば、スラスラとよう呂律が回るなと自分でも感心した。ロード以外やとあんま話すほうやないんやけど腹立ってしゃーないからつい、喋ってもうたわ。ほんまに、そんくらい、この男は腹立つんよ。

「翔君」

ふと、背後から柔らかくボクを呼ぶ声が聞こえてきた。フェンスを両手で掴んでにこにこと愛想を振りまく名前ちゃんがボクだけを見てる。その優越感やらなんやらで気を良くしたボクは吸い込まれるように名前ちゃんに近付いた。

「一緒に帰ろう」
「…もうちょっと大人しく待っとけへんの」
「翔君が見えたから来ちゃった」
「ピギィ」

ふふふと嬉しそうに笑う名前ちゃん。…ほんま恥ずかしい子ぉやね、背を向けてデローザを片付けに行こうとすると「校門で待ってるね」と聞こえてきて心の中で返事をした。

部活を終えて校門に向かうとそこには小鞠と談笑している名前ちゃんの姿があった。あはは、と眉を垂れ下げて笑う名前ちゃん。キモキモキモ!キモすぎるで、小鞠なんかに笑顔向ける必要ないやろ。すると名前ちゃんはボクの事に気が付いては「またね小鞠君」と手を振ってボクのほうへ走ってきた。

「まだ話しとけばええやん」
「え、いいよ!翔君待ってたんやし」
「別ぅに頼んだ覚えないで」

普段から素直やないボクやけど、さすがにその言葉の棘には名前ちゃんも気付いたようでちょっと驚いた顔しとった。

「なんかあった?翔君」
「べーつぅーにぃー」
「…何怒ってるの」
「怒ってへんわ名前ちゃんの思い違いやで」

そう言った言葉とは裏腹にボクはそっぽを向いて歩き出した。我ながら呆れるほどに大人気ない、とは思う。せやけど、なぁ。名前ちゃんが悪いんやで。ボクをこんなに苛立たせるキミィが悪い。

「…っ翔君嫌い!せっかく待ってたのに」
「ハア?ボクかて名前ちゃんなんかキライやし」

この日、名前ちゃんと初めて喧嘩をした。


140708



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