ボクが求めるもの



「なん、やて」
「やから、泊まっていかないの?」

てっきりそうかと思ってた。なんて飄々と言ってのけるこの子はほんまに大丈夫やろか。いや、泊まらんよさすがに。いくら親がおらん言うてもそんな事出来へん。いや、そんな事ていうても変なことするつもりはないんやけどな、とか色々考えながら、動揺を隠すようにズォッと音を立ててジュースを飲み干した。

「明日も朝からロード?」
「…………いや、ちゃうけど」
「!やったら別に泊まっ」
「帰る」

む、と不服そうな名前ちゃんと目が合う。なんでそんなにボクに泊まって欲しいん。イミワカラン。ハァ、とため息ついて「わかった」と言えばすぐに表情が明るくなった。…全く、こっちの気も知らんと。で、ボクはどこで寝ればええの。半分投げやりに問うと名前ちゃんが上機嫌で案内してくれた。

「……。」
「電気消すねー」

状況が変わった。やはりあの時頑なに断ってれば良かったんや。らしくもなくボクは後悔した。保安球をつけたまま、後ろでモゾモゾと名前ちゃんが動いた。
案内されたのは名前ちゃんの部屋。一人部屋にしては広すぎるその部屋に相応なサイズのベッド。床に寝転がろうとするボクを引っ張って、無理やりベッドに引きずり込まれた。バクバクバクバクと心臓が暴れ出す。布団に潜って気付いた。このベッド、ダブルサイズくらいあるな多分。名前ちゃんに背を向けて布団に包まると、電気を消された。

「…翔君なんでそっち向くの」
「ボク右向きやないと寝れへんねん」

しょうもないウソやな、と自分でも思ったがこの際は仕方ないわ。「翔君」小さい声で呼ばれると、何、と体を動かさずに声だけで反応した。すると腹辺りに片手を回された。ぎゅう、と少しだけ力が込められてボクは石のように固まる。

「翔君、こっち向いて」

名前ちゃんが柔らかい声で甘えてくる。聞いたことのない声にビリビリと痺れた。くるりと身体を反転させて名前ちゃんの方に向けると、保安球のおかげでばっちりと至近距離で目があった。名前ちゃんが微笑むと、吸い込まれるようにキスをした。すぐには離れたくなくて、何度も何度も出来るだけ優しく味わった。背中に手を回して抱き締める力を強める。はぁ、と少し苦しそうな息が漏れるのを聞いて今までより強く唇を合わせると、ベロッと舌を伸ばした。少しだけ開いた上下の歯の間に興奮したボクの舌を入れる。チュクッ、と淫靡な音が漏れてまたボクを刺激した。止まらん。名前ちゃんが愛おしくてたまらん。細ぉく目を開けて目の前の名前ちゃんを見るとボクの身体を押して離れたがるのに気付いて仕方なしに離した。はぁはぁ、と苦しそうに肩で息をする名前ちゃんは眉をひそめて妙に色っぽい。再び欲情してその唇に近づくと口元を手で覆われて止められた。

「ね…………寝よう、翔君」
「……。」

そう言うと名前ちゃんはボクに背を向けた。名前ちゃん、と呼ぶと「左向かんと寝れないの」と返された。…ウソつけ。名前ちゃんの髪に撫でるように触れると堪忍してこっちを向いてくれた。

「…イヤなら言うて」
「嫌やないよ、ただね」

すごく緊張したから、ドキドキして心臓飛び出そうやったから。そう言う名前ちゃんの目は涙でいっぱいになって、今にも零れそうになっている。頬を手で包むと、親指の腹でそれを撫でた。

「…やから帰る、言うたんよ」
「そ、そっか。…ごめん」
「名前ちゃん」

やっとボクの顔を見上げてくれた。おやすみ、と言うと「おやすみ翔君」と微笑んでくれた。あぁ、ええわ。今はこの笑顔で十分や。


140331



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