あの頃はまだ未熟で



ボクは小さい頃スポーツが得意やなかった。今でもロード以外はそんな出来ん。毎日母さんの病院まで自転車で通って、幸せな気持ちを積んで帰る。それから自転車が好きになった。地元の大会出て優勝したら母さんはすごく喜んでくれて、もっと好きになった。学校で将来の夢を絵にして描く授業があったから、スポーツ選手ゆうてロードレーサーを画用紙に描いた。するとクラスの猿共に酷く馬鹿にされて無惨にもぐしゃぐしゃに落書きされた。

「何やってんのん?」

ボクが珍しく言い返そう思ったら、横から言葉を遮られた。ああ、知ってるでこの子。クラスでも有名なお嬢様。…というのはあだ名で、育ちは知らんけど多分良いんやろな。話し方に品があって、勉強も運動も出来て、顔も整っとる子。まさにこういう子を才色兼備っていうんやろな。ボクが嫌いなタイプや。どうせ、この子も一緒になって馬鹿にするんやろ、そう思っとった。

「苗字さんも関わらんがええよ、こんな奴!こいつな、とび箱もろくにできんくせにスポーツ選手なるんやて!」

そう言うと、ぎゃはははと下品な笑い声あげてどっか行った。

「わ、ひどいなーこれ沢田たちにやられたん?」

その場に残ってた苗字さんが、黒いクレヨンでぐしゃぐしゃに落書きされて画用紙を見て顔を歪めた。しかしすぐにどこかに行ってしまったので、この時はなんや同情しただけの感じ悪い子やな、と思った。すると画用紙とクレヨン持ってまた戻ってきた。

「みどうくん、これにまた描き」

そう言ってはい、と渡された画用紙とクレヨン。一瞬何言ってるのかわからなかった。

「苗字さんは…馬鹿にせんの?」
「何を?」
「…ボクが、スポーツ選手になりたい…思てること」
「なんで?」
「ボク、とび箱も鉄棒も苦手やし。…知っとるやろ」
「うん、知ってる」

じゃあなんで、そう聞くとキョトンとした顔で口を開いた。

「だって自転車乗ってるみどうくん見たことないもん」

次にキョトンとしたのはボクのほうやった。まあ、そうやけど。先入観に囚われて小馬鹿にする猿共とは違って、さすがに賢いだけあるなと思った。「ケイリンとちゃうで」そう言うと「えっ、そうなの!」とびっくりした様子だった。それから興味津々にロードのこと聞いてくるもんやから、聞かれたことだけ答えた。レースが過酷なことも、ママチャリと違うことも。するとえらい笑顔で聞いてくれる。ボクは母さん以外に自転車のこと話したことないから、話すのはとても楽しかった。

「えーみどう君のレース見てみたいなあ」

ケイリンちゃうんやろ?と聞かれてボクは黄色い気持ちになった。母さんとは、別の感じ。胸の奥がふわふわなって目の前のこの子がキラキラして見えた。これが、ボクと名前ちゃんの出会い。


140211



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