それは甘い雨の味



今日は名前ちゃんと昼飯を一緒に食べた。弁当を作ってきてくれて、ボクはそれをペロリと平らげてしまった。ご馳走さん。何か褒め言葉の一つでも言うたほうがええのやろうけど、生憎そういった類の言葉は僕は持ち合わせていなかった。お粗末様でした。そう言う名前ちゃんにまた作ってきてや、とだけ言うと嬉しそうにしとった。


今日も今日とて部活を終える。雲行きが段々怪しくなってきて雨が降ったら面倒やな、と思いながら手早く着替えを済ませたが、部室を出た途端に雨が降り始めた。ついてへんな。最初は小雨だったのが粒が大きくなってきてパチ、と雨粒がまぶたに当たった。あかんわ、傘持ってきてへんわ。チラ、と下駄箱の傘立てを見ると何本か飾り気のない地味な傘があったがそれは何となくやめた。仕方ない、濡れて帰るか。そう決めてさっきより強くなった雨の中に飛びこもうとしたとき、後ろからボクの好きな声が聞こえた。

「あれ、みどうくん!」
「…名前ちゃん」

雨のせいでどんよりとした空に名前ちゃんの笑顔がよく映えた。部活終わり?ちょうどよかったね、とそそくさと革靴に履き替えて寄ってきた。そんな急がんでええのに。品のある茶色のチェックの傘を広げると、ボクが傘を持ってへんことに気付いて入れてくれるみたいやった。そうや、ボクが持たんとあかんやったな。前も一度雨の中一緒に帰ったことを思い出して傘を奪うと名前ちゃんが微笑んでくれた。

いつもの分かれ道に着くと傘を返してボクは濡れて帰ろうとすると、すぐ引きとめられた。

「あたしの家すぐそこだから。傘貸すよ」
「ええよ別に。こんくらい濡れて帰るわ」
「だーめ、スポーツ選手が風邪引いたら大変でしょ」

スポーツ選手。その言葉に胸があったかくなった。ボクの小さい頃の夢。名前ちゃんがそれを今でも覚えてくれとるのかは謎やけど、その言葉はやけにボクの胸に響いた。「わかった」そう言うとまた傘を持って名前ちゃんの後をついて行った。
ちょっと待っててね。そう言うと玄関に一人置いてかれた。立派な家や。人の気配はなくて家の人は出掛けているみたいやった。ジロジロと辺りを見回しているとすぐ名前ちゃんが戻ってきた。はい、と渡されたタオル。…ええのに。受け取らずにおると名前ちゃんに髪を拭かれてしまった。ピギ。タオルの隙間から見える名前ちゃんの笑顔に居心地が悪うなって少しうつむいた。

「気を付けてね」
「子どもとちがうで」

くすくす笑われたからムッとした。名前ちゃんはわざわざ外に出て見送ってくれた。また明日。借りた傘をさして帰ろうと何歩か歩くとピタリと足を止めた。どうしたの?そういう名前ちゃんにまた近寄った。コツン。傘と傘がぶつかる音の後がした。名前ちゃんの唇にちょん、と触れるだけのキスをしてすぐ離れた。まんまるい目を見開いてちょっと面白い顔しとった。

「…また明日」

ドクドクドクとうるさい心臓は家に着いても鳴り止まなかった。


140313



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