御堂筋翔の苦悶



いつものようにおばさんの作ってくれた晩御飯を残さず食べては珍しくリビングでドラマを鑑賞していた。前後の流れがわからず、話の内容もさっぱりだったが何故か目を離せない理由があった。

「好きだよ…」
「私も」

画面全体に映されたのは若い男女のキスシーン。いつもなら阿呆らしい、と目もくれないのだが実は今日、名前ちゃんに言われたあの一言がどうしても頭から離れずにいた。

「キス、したいなぁ」

名前ちゃんは一体どんな顔してあんな事を言ったんやろか。背中越しで彼女の顔は見えず、またボクの顔を見られんで本当に良かった。このテレビの液晶に広がる阿呆らしいラブシーン、名前ちゃんはこんなんを求めとんのやろか。もしそうやったらボクは一生をかけてもその望みは叶えられそうもない。無理やキモすぎるわ。

「翔兄ちゃん、ドラマ見てるとか珍しいなぁ」
「…別にぃ。見てへんし」

すぐにテレビの電源を切ると自分の部屋へ向かった。ふとケータイを開いてみると名前ちゃんからメールが来とった。「今日は変なこと言ってごめんね」…「別に」とだけ送るとケータイを閉じて横になる。ハァァあかん、何考えても無駄や。寝よ。


「あ、みどうくんおはよう!」
「……おはよう」

次の日の朝。下駄箱で名前ちゃんとはち合わせするとジィ、と下から覗き込まれて思わず「ピギ」と口に出してしまった。上目で見てくる大きな目に胸の奥がキュゥゥと締まる。可愛らしいその目に心が見透かされそうで内心焦った。

「隈出来てるよ、大丈夫?」
「な、んもあらへんわ!」

これ以上名前ちゃんと話してると本当に心を見透かされそうやから足早にボクだけ先に教室に向かった。そうや、ホンマは昨日あの後寝られんくて睡眠を満足にとってへんのや。「みどうくん!」大きな声で呼ばれたのでバッと後ろを振り返ると、勢い良くぶつかってきた名前ちゃんを咄嗟に抱きとめた。「へぶっ」つぶれた声がボクの腹部あたりに聞こえた。顔を上げると鼻が赤くなっとったからブサイクやな、言うと「みどうくんが急に止まるからやろ」と少し笑ってた。不意に名前ちゃんの口元に目がいく。微かに赤いその整った唇に喉の奥が鳴った。食い物とちがうんや、何考えとんのやボクは阿呆か。

「みどうくん、私別に大丈夫だから!」
「ハァ?何がやの」
「昨日の事忘れて!私全然キ…ス…とかしなくていいし!ね?」

全然…なんやて?大事なとこ声小さくて聞き取りづらかったわ。それじゃ、と名前ちゃんは隣のクラスに戻ってしまった。ハァァ。もうイヤや。名前ちゃんはいつもボクを振り回すから嫌いや。教室に入ろうとした瞬間、名前ちゃんの口元がフラッシュバックして足を思い切りドアにぶつけた。


140312



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テーマ「人外ファンタジー」
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