シャンプーの匂い



午後10時。名前ちゃんからメールが届いた。風呂入って飯も食べて、ウトウト眠くなってきた頃やった。「部活、テスト前もあるの?」やと。ある、いうかするんやけどな。ボクがメニュー組んでザク共に練習させるんや。赤点とって大会出られへんようなったらさすがに堪えるから、早めに切り上げるけど。まぁボクからすれば学校の定期試験くらい大して勉強せんでもクリアできると思うんやけどな。「あるで。短いけど」とだけ送り返した。何か用事でもあるのだろうか。

「勉強教えてほしいな」

文の後にうつむいたような変な顔文字がくっ付いていた。なんやこれキモ。それより勉強て。そういや前に名前ちゃんに教えたことあったな、別に出来んワケやなかったやんか。ケータイのメール画面にイヤや、と打ち込むもすぐに消してええよ、と打ち直して送信した。キモ。完全に甘ちゃんやわボク。すぐに来た「ありがとう」の返信に、胸の奥がふわふわとした。まぁ名前ちゃんが喜ぶなら何でもええわ。


「明日から部活早よ終わるで」
「ほんと!じゃあ明日からよろしくお願いします」

学校で会うと深々頭を下げられた。頭上げ、別にそんな大したことするわけやないし。すると名前ちゃんは満面の笑みをこちらに向けた。そう、ボクは名前ちゃんのその顔が見たいんや。

その次の日。名前ちゃんはボクの部活が終わるまで先に図書室で勉強しとるみたいやったから、部活を終えると名前ちゃんのもとへ向かった。

「ボク要らんのちゃう」
「わ!みどうくん!びっくりした…終わったん?」

机の上いっぱいに広げた教科書とノートを片付け始める。名前ちゃんの横に座ると髪の毛から香る匂いが鼻をくすぐった。香水ではない自然なそれに心臓が跳ねた。ピギ。しまった声に出てもうた。不思議な顔をする名前ちゃんになんでもない、と咄嗟に弁解した。

「ここ、が分からんのやけど…」
「……。」

指さされた教科書を奪ってジロジロ舐め回すように見る。あぁ、これ簡単やで、これな。胸ポッケのシャープペンシルを取り出して書き込んでいくとバチリ、と名前ちゃんの大きな瞳と目が合った。ボキッ。指先に力が入り芯が折れる。

「せ、やから」
「うん、うん…」

カチカチと新しく芯を出して書き込む。肘や脚が何度かぶつかって名前ちゃんが毎度謝ってくる。このやりとりが段々くすぐったくなって、この問題解いてみ、ととうとう投げ出した。それから黙り込んでそれに取り組む名前ちゃん。残されたボクはやることもなく名前ちゃんの顔をバレへんように観察してみた。睫毛長いな、化粧しとんのやろか。肌白すぎや、ちゃんと日に当たっとんのか。手も小さくて物持つの大変そうやな。色々考えとったら「出来た!」と嬉しそうにこっちを向いてきたのですぐ目を逸らした。

「…合っとるで」
「ほんと?やったー!」

スッキリした様子で蹴伸びをした。やけに動くもんやからまた髪の毛が香る。

「もう付けてへんのやね」
「ん?何を?」
「くさいやつ」
「え。あたし臭かった?」

自分の肩や腋らへんの匂いを嗅ぐ。ちゃうわ。

「あぁ、香水?」
「そっちのが、ええわ。ええ匂いする」
「本当!わーい」

多分シャンプーの匂いだよ、と髪の毛をボクのほうに寄せてきた。やめ、くらくらするわ。酔いそうや。何故か心臓がバクバク言い始めて、静かな図書室ではバレそうやったから早く帰りたくなった。


140308



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