黄色は輝きを増して



インターハイ三日目。ボクはゴールに辿り着く前に、自分で立ち上がる事も出来ない程の限界を迎えてそのまま搬送された。カラカラと担架に揺らされながら、色んな事が頭をよぎった。なんでこんな時に石垣くんの言葉を思い出すんや、キモいわ。コーナー曲がる時なんか名前ちゃんの叫ぶ声が聞こえてきて、今思えばあれ幻聴やな。相当キとったんやろな。救護テントに着くと簡易ベッドに移されてボクは一人になった。


「ッ…ハァ、みどうくん!」

入り口のほうで声が聞こえる。ああ、知っとるでこの声。名前ちゃんの声や。幻聴だけやなくて幻覚が見えるとかキモ。相当やなボク。そう言い聞かせては目をゆっくり閉じた。

「め、目を閉じちゃ駄目、みどうくん…!死んじゃイヤ!」
「…誰が死ぬか。阿呆か」

思わず口に出すと目の前にいる名前ちゃんの顔は次第に明るくなっていく。…幻覚、やない?なんで、目の前に名前ちゃんがおるんや。

「な、んでおるん…」
「応援に来たよ、みどうくん!」
「ハ、ハァ?阿呆ちゃう。ここ、箱根やぞ…」

うん、新幹線で来た、て。なんでやの。なんでわざわざ授業サボってまで箱根に来とるん。そんな自転車、興味ある風には思えへんかったけど。イレギュラーが重なってボクの頭の中はショートしそうやった。目の前の名前ちゃんは何かボクに言いたげな顔していて、でもいつまでたっても話さへんからついにシラを切らした。インターハイ終わったし、ええか。ボクも名前ちゃんに言うて決めとった事、あるんや。

「あっあのね…!」
「あのな」
「あっえ、何かな!」

話すタイミングが重なって、名前ちゃんが譲ってくれた。
三週間前くらいやったと思う。名前ちゃんが泣き散らかして、ボクがマチガイを犯して、多分そのくらい経った。その間一言も名前ちゃんと言葉という言葉を交わしてへんのは別に、避けてたわけやない。捨てなあかん、思ったんや。この日まで。あのまま名前ちゃんと仲睦まじく交流しとったら、ボクはいつ何を言うか自分でもわからんやったから。せやから、言葉は交わさんかった。…のやけど、

「インハイ終わったから、言うわ」
「う、うん…?」
「ボクな、名前ちゃんが大切や」

目の前の名前ちゃんは今までで見たことないくらい、びっくりしていた。驚愕、まさにそんな顔しとる。

「それだけや」
「えっ」
「それだけ。わかったら帰り」
「わわ、わかんないよ!」

ボクが何を言うつもりや思ったんか、何故か腑に落ちてないような顔をしている。なんや。名前ちゃんは何を言おうとしたん。そう聞くとやっと口を開いた。

「みどうくん…あたしもみどうくんが大切やよ」
「…ファ?」
「この三週間、みどうくんと離れた三週間な、心に大っきな穴が空いたみたいやったんやよ。寂しいって感じたんよ。それで、気づいてん、あたし、みどうくんの事」
「ま、待ちや」

柄にもなく焦って名前ちゃんの声を遮る。何、言うとんのこの子。頭が追いつかない。名前ちゃんも、ボクと同じ事思いよった、いうことか。そんなはずない。ふと、視界が真っ暗になった。ドクドクと懐かしい音が聞こえる。幸せの音。三週間前、ボクが名前ちゃんにしたマチガイのように、今度は名前ちゃんがボクにマチガイを犯している。

「好きやよ、みどうくん」

ギュウッと強く抱き締められる。苦しいわ、そう言うと名前ちゃんはごめんね、と謝って放してくれた。

「ちゃう、心臓が、苦しいんや」

そういうと名前ちゃんは口元に手を当てて笑った。

「あはは、顔真っ赤」
「…名前ちゃんみたいなの、物好きいうねんで」

そうかな、と目の前で笑う名前ちゃんはあの頃よりずっと綺麗な黄色しとった。キラキラ輝いて、ボクの中にも黄色が広がる。しばらく心臓がうるさくて敵わんかったから、名前ちゃんに早よ帰りや、と帰宅を催促した。

fin.


140219



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