巻島


親には何回も要らねえって言ったっショ。別に授業態度が悪いわけでも、出された課題を無視するような不真面目な生徒でもないつもりだ。ただ、前回の定期テストで順位が今まで一番悪かったから親が勝手に家庭教師を雇ったみたいっショ。あんま息子に干渉しすぎると嫌われるぞ、と言うと「もう自転車の備品は買わないわよ」と返された。…それは、ずるいっショ。カテキョは一時間後に来るらしく、俺はひとまずシャワーを浴びて自室に戻った。

玄関のほうでインターホンの音がした。多分、母さんが出るだろうから大人しくデスクに向かう。どうせならグラビアみたいな姉ちゃん来ないかなと淡い期待をしながらしばらく待った。

「はじめましてー。」

「…ショ。」

正直びっくりした。グラビアとまではいかないが、普通に美人なお姉さんだ。名前は名前さんというらしい。第一印象で賢そうだとは思ったが、どうやら洋南大学という名門校に通っているみたいだ。大学2年生、俺より2つ年上のお姉さんっショ。

「で、俺は何すればいいんスか?」

「そーだねー1回が90分だから、毎回小テストしようかな。次回の小テスト範囲教えるから、次回までに復習しておくこと。いい?」

なかなか効率のいい勉強法だと思った。毎回部活終わりの疲れてている状態で勉強するから、そのくらいが丁度いいっショ。うす、と返事するとニコッと笑ってくれた。…あ、良い。とりあえず、俺の苦手な範囲と、前回の試験問題とその結果を伝えて今日のカテキョは終わった。次回までに問題を考えてきてくれるらしい。

その日から、授業以外でも軽く復習をするようになった。次名前さんがカテキョに来るまでにちゃんと理解しておかないといけないっショ。不思議と内容も頭にスッと入るような気がした。

「じゃあ今から40分間ね。」

小テストはいつもきれいにプリントアウトしてくれる。毎回この90分の為に時間を割いてくれていることが、カテキョとしては当たり前なんだろうが嬉しいっショ。解いた問題を渡すと赤でチェックしてくれる。それを横で頬杖ついて(名前さんの顔を)眺めているのが最近の至福の時間である。睫毛長いな、とか髪痛んでないなとか思ったり、いつもよりゆるい胸元に目を遣ったりする、この時間が好きだ。

「すごいよ裕介君!満点だよー。」

初めて名前を呼ばれてどきっとした。当たり前ショ、なんて言ってみせたけど本当は結構気張った。

「へー裕介君自転車競技部入ってるんだ。」

趣味でやってるのかと思った、と部屋にある備品を見ながら言う。その後ろ姿を見て、ふと思い出す。そうだ、次の定期試験でいい成績とるとカテキョは終わるんだった。まあ成績が落ちることはないだろうから、確実っショ。

「センセーお願いがあるっショ。」

「なんですかー?」

「次の定期試験、平均点80点以上とったら願い事2つ聞いてほしいっショ。」

「2つ?ふふ、欲張りだね。」

エロい事以外なら何でも聞くよ、と笑顔で言うからひょっとして疑われてたのかと思うと少し落ち込んだ。いや、それはそれでアリだけどよ。とりあえず、これで戦利品の予約が出来たわけだ。気張るっきゃないっショ!


金城に勉強を教えてもらおうとクラスに顔を出す。「珍しいな、お前から出向いてくるとは。」そう言いながらも数学の問題のことを聞くとすぐに答えが返って来た。ああ、そういや金城、洋南大学志望だったか?名前さんの通っている大学だ。…こんな時でも名前さんのことを考えるんだから参ったっショ。
自転車以外でこんなに努力したのは久しぶりだ。無事定期試験も終わり、早くもテスト結果が返ってくる。全ての結果が分かってから初めてのカテキョの日、俺は鼻歌交じりで帰宅した。

「えー!平均86点もあるじゃん!すごいよ裕介君!」

四捨五入したら90点だよーすごいすごい。と頭を撫でられた。…悪い気はしない。ただ慣れてないものだから気恥ずかしくてクハ、と照れ笑いした。

「名前さん、約束のことなんすけど」

「うん、何なに?」

「アドレス教えて欲しいっショ。」

えっ。意外だった様子でそれだけでいいの?と言うと慌ててスマホ取り出した。あと一つ、

「今度のレース、見に来てください。」

俺があまりに真剣な表情で誘うものだからまた驚いていたが、すぐに分かった。行くね。と笑顔で言ってくれた。3つ目のお願いは、レースで優勝したら聞いてもらうことにするっショ。


'140210 pike


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