青八木


いつもの目覚まし時計ではなく、カーテンの隙間から差し込む陽の光で目が覚めた。部活も授業もない、何も予定のない日はいつぶりだろうか。ふと横を見るとスヤスヤと寝息を立てる青八木君がいた。自分の下着やパジャマがベッドの下に散らばっているのを見て、昨日の夜のことを思い出して少し恥ずかしくなった。ロード以外であんなに息を乱す青八木君はとても官能的で、どきどきした。なんて考えていると彼が目を覚ました様子でうつろな目(もとからだけど)がこちらを向いた。

「おはよう。」

「…おはよ。」

にこっと微笑むと青八木君も微笑み返してくれた。そのままじっとあたしから目を逸らさずに「それ、いつ付けたの?」と聞いてきたので、何のことだろうと慌てて自分の顔や体を触る。「みみ…」と指差す先を自分で触ってみると、

「な…にこれ…」

人間の耳ではなくて明らかに獣の耳がついていた。毛の感じとか感触もリアルだ。


「付け耳じゃないんだ。」

「…うん。本当何これ!戻るよね?ちゃんと元に戻るよね?」

半泣きで訴えると、さあ…と少し意地悪い表情をされた。あ、かっこいい。見惚れていると、彼がふにふにと耳を触りはじめた。触られているという感覚はあって、寧ろ変な感じになる。

「ふ、…っ」

触られる度にぴくぴくと反応する耳。

「(おもしろい)」

「あああの、青八木君!一緒に、もとに戻る方法、…考えて?」

「…俺はこのままでもいいけどな。」

えええ!駄目だよ!と慌てる様子の名前が可笑しくてつい笑うと怒られた。確かにこのままでは恥ずかしくて外に出られないし学校に行けないだろう。しかしせっかくなのでこの猫耳を堪能したい青八木だった。

「名前。」

「はい、なんでしょう。」

いつまでも裸でいるわけにもいかないので、持ってきていたパーカーに腕を通す。もぞもぞと着替えていると、部屋着に着替えた彼がこちらに熱い視線を送ってくる。

「…ちょっと鳴いてみて。」

その言葉にぎょ、としつつもとりあえず拒否しておいた。あからさまに落ち込む青八木君に、ちくりと良心が痛む。うう、その顔はずるくない?一回だけだからね、と念を押して彼の言いなりになってしまうのだから、つくづく甘いなあと苦笑する。

「…にゃあ。」

「……。(かわいい)」

せめてなんか言ってよ!と真っ赤な顔して言うと、すまない、ありがとう。とやけに満足した表情で返されたので何も言えなかった。

「元に戻る方法…ひとつだけ。」

「わかるの?!」

何!と血相変えて顔を近付けたらわからないけど、と自信なさげに言った。

「朝起きると耳が生えてたなら、」

昨日の夜と同じことをすればいいんじゃないか。と言ってのける彼。なるほど、そういうことか!と一旦納得したが、はて昨日の夜のことを思い出して辿っていくとハッとして青八木君の顔を見る。するとそれはもうとても至近距離で潤んだその片目で見つめられていた。

「もう一回…する?」

返事をする間もなく、次の瞬間には啄ばむようなキスをされて、気付けば彼のバックグラウンドは午後1時を指した時計と白い天井だった。


'140208 pike



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