御堂筋
「みどうくーん」
ピンポーンと御堂筋くんの家のインターホンを押す。珍しく学校を休んだ御堂筋くん(長いのでみどうくんって呼んでる)のために、家が近いという理由だけで先生から頼まれた、プリントを渡しに来た。しばらくして出てきたのは私より多分年下の可愛らしい女の子。はーい、とドアを開けると同時に目を丸くしてとても驚いた様子だった。
「あっ…ママー!あきらお兄ちゃんのお友だち来たよー!」
女の子が私を見てすぐに大声でお母さんを呼んだ。みどうくんの家にあがるのは初めてだ。どきどきしながら靴をきちんと揃えて家に踏み入ると、エプロン姿のお義母さんが駆け寄ってきた。
「いらっしゃい、わざわざありがとうね。翔くん、上にいるから。」
「い、いえ、おじゃまします!」
ぺこ、とお辞儀をするとそそくさと二階へあがらせてもらった。
ドアは開いていて、覗くと布団が敷いてあったからすぐに分かった。
「…みどうくん、入るよ…」
床に敷かれた布団がこんもりと膨らんでいた。ちら、と覗き込むと大きな目がこちらを向いていて思わず声を上げてしまった。いつもならここで「失礼な奴やな」とか言われるのだが今日は返答がない。
「みどうくん、具合大丈夫?」
「……」
「あのね、プリント持ってきたよ!先生がお大事にって、それとね給食のゼリー」
「…苗字さん」
私の言葉を遮って、むく、と上体を起こす。どうしたの?って聞くとまた黙り込んだ…が、みどうくんの視線がゼリーにいってるのはすぐに分かった。
「ゼリー食べる?」
「…食べる」
いつもならここで彼はいらんわ、と即答するはずだ。風邪でよっぽど弱っているのだろう、素直な彼がとても可愛らしく見えた。
「はい」
「…。」
「どうしたの?食べないの?」
みどうくんにゼリーを差し出したけど受け取らずに視線を斜め下にそらされる。
「…自分じゃ…食べられへんわ」
もぞもぞと布団の中で足を動かしならそんな事言うものだから、ついつい笑みがこぼれる。するとムスッとした様子で「…なんや」と悪態をつくのだった。
「はい、あーん」
一口サイズにすくったゼリーをみどうくんの口元に運ぶ。ぱく、と口に含む彼の顔が火照ってるのはまだ熱があるせいか。美味しい?と聞くともっとくれと言わんばかりに、無言でパカッと口を開ける。ああ、美味しいんだ。御堂筋くんの人間らしさというか弱っているところを初めて見て、とても嬉しかった。
「今日はロードもお休みだね」
そういうと、もぐもぐしていた口を止めて飲み込むと「今日も、乗ってきたで」と平然と言ってのけた。
「だっだめだよ!熱あるんだから、寝とかないと。治らないよ?」
「…熱、なんかないわ」
視線をそらして言うものだから、怪しんでみどうくんのおでこに私のをくっつける。
「…!」
「ほらあ、あるじゃん熱。だめだよ、きついんでしょ?」
「は…なれぇや…」
あ、ごめんね。とおでこを離すと、耳まで真っ赤になったみどうくんがいた。えっそんなに熱あったかな?と聞くと、「…ちゃうわ。」と答えた。
「じゃあ、そろそろ帰るね。」
辺りも暗くなり、そろそろ帰らないと親に心配される時間だ。そう思って立ち上がると、じっと大きな目で見つめられてドキッとした。
「ま、またねみどうくん。」
「…また明日も来てや、苗字さん。」
そう言うと布団を頭までかぶってしまった。明日もって、治す気ないじゃん。私はくす、と笑って「明日の給食はプリンだよ。」と言って階段をおりていった。
'140203 pike
ヒロインのことが好きな御堂筋くん。