東堂


「お疲れ諸君!」

勢い良く私が部室に入ってきた。普段の私ではあり得ないほどキラキラした笑顔を振りまいて、何やら周りにいた部員が引いてしまっている。…いやいやいや東堂くん。話が違うじゃないか。そんな気持ち悪い顔をされては困るんだよ。

「ちょっと来い!」
「おっとどこの美形かと思えば俺ではないか」

その腕を掴むとそのままひと気のない場所へ引きずった。

「いい?東堂。もとに戻るまで普段の私の真似をしていてほしいの」
「?していたではないか」

全然してない。ハァ、とため息をつくと「幸せが逃げるぞ」と言われた。誰のせいだ誰の。…そう、私と東堂はどういうわけだか身体が入れ替わってしまった。今朝思いきり頭をぶつけてしまって、それからとうとう部活が始まるまでもとに戻れずにいた。

「私…山登れないんだけど」
「大丈夫だ、今日は俺はトレーニングをするようにとフクには伝えている」

話が早いな。ありがとう、と伝えると次に頭を過ったのはレーパンに着替えることだった。下着も脱がなければいけないから到底私には出来ない。(ちなみにトイレは多機能トイレに二人で入って本当に死にたくなった)

「き、着替えを手伝ってほしい」
「そうだな。苗字に俺の息子を見せるわけにはいかないからな」

私の顔で陽気に笑うこいつを思わず殴りそうになった。ダメだ、傷がつくのは私の身体。なんともやりにくくて一刻も早くもとに戻りたいと願った。ぎゅっと目を閉じている間に私の姿をした東堂に制服を脱がされる。カチャカチャとベルトの音が響いて、思わず変な想像をしてしまう。こんな状況をもし誰かに見られたら…部活動停止どころじゃ済まされない。

「……いかん」
「何」
「つい鏡を見てしまった」

我慢ならず鉄拳を一発くらわせた。本当にこの男はなんてことをしてくれたんだ。

「苗字の姿で良かった。でなければ勃」
「いいから早くしろ!」

着替え終わるとトレーニングルームへ向かった。いつの間にかジャージに着替えた私がなんだかそわそわしている。

「女というのは身体が重いな」
「…そう?」
「うむ、特にここの肉がな」
「ぎゃー触るな!」

胸を鷲掴みながらニヤつく私をビンタした。…もとに戻ったら絶対半殺しにしてやる。ビンタをしているところにダルそうな荒北がやって来た。若干その顔は引いている。

「…いくらなんでも女の子に手ェあげるのはマズイんじゃナァイの」
「荒北の言うとおりだ、早く離せ!」

チッ、と舌打ちすると荒北にジロジロと見られた。いけない。東堂は舌打ちなんてしないもんね。

「…苗字チャン、ちょっとウォーミングアップ手伝ってくんない」
「いいぞ!ほら横になれ!」

ああもう、それじゃあ完全に東堂の口調じゃないか。荒北の顔を見ると何か勘付いた様子で私の首筋あたりの匂いを嗅いでいた。

「苗字チャンの匂いじゃねェ」
「荒北…俺はそういう趣味ないのだが」
「なっなななな荒北!早く苗字から離れろ!」

慌てて荒北と私の身体を剥がして、私の身体をこちらへ引っ張った。するとよろけてこちらに覆い被さってくる。そのまま見事に地面に頭をぶつけて二人とも倒れてしまった。

「アー、あとは俺知らねェ」
「……」
「…見下ろされるのも良いものだな」

身体がもとに戻って、私が東堂を組み敷く。何故か東堂の手が私の胸に当てられていて、意図的にフニフニと動かされた。

「東堂」
「おっと、すまん!手が勝手に」
「さっきの着替えの続き…する?」
「……………えっ」


'140404 pike




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