「これ…止むんスかね」

部室には窓の外を不安げに見つめる水田くんと、「ノブ、がまんや」と先ほどからそればかり繰り返すうるさい石垣くんと、他のザクが早う部活に来るのを待つボクの三人がおった。このどしゃ降りの中でも勿論、予定通りに練習を行うつもりや。他のザクにもそう言うてるから間違いなくココに集まるはず。部活が始まる時間まであと十分という頃に、部室のドアが勢いよく開けられた。ようやく来たかとそちらへ目を向けると、この雨にやられてぐっしょりと制服を濡らした名前がおった。

「ああもう…びしょ濡れやわ。あ!石垣さんノブさん、お疲れ様です」
「おう苗字!お疲、れ」

タオルで濡れた髪を無造作に拭きながら挨拶する名前に笑顔で返した石垣くんは、その顔をすぐに逸らした。水田くんなんて顔を真っ赤にして意味もなくロッカーを開けたり閉めたり、終いには「いやぁほんま今日の雨元気ええスね」とかワケワカラン事を言い始めた。

そんな挙動不審の奴らを見てため息交じりに名前に目をやる。夏服の白いワイシャツだけでなく中に着ている肌着までまんべんなく濡れてしまって、薄い水色の下着が見事に透けていた。名前、と声を掛けても全く気付く気配がない。この女は全く、無防備というより無頓着すぎる。年頃やったら少しは気にするもんやないやろか。

「名前、透けとるで」

言葉をオブラートに包むことなく率直にそう指摘すると、ボクの視界の隅におる二人の肩が跳ねた気がした。さすがの名前にもやっと伝わったらしく、ああほんまやねと笑ってワイシャツの一番上のボタンに手を掛けた。手が濡れた服を擦る音が響く。その様子を見てこそはいないが察しただろう水田くんは勿論、石垣くんまでも耳を赤くして戸惑っていた。

「待てや、なんで今着替えようとしてるん」
「だって濡れちゃったし。そのままやと気持ち悪いやん」
「…せやからってここで脱ぐか普通」
「ふふ、誰も見る人おらんて。水着と一緒やよ」

ボクぅがせっかく忠告してあげているのに、一向に耳を傾けない。さすがに苛ついたボクはユニフォームに着替える途中で上半身を露わにしたまま、ヘラヘラと力の抜けるような笑顔を浮かべる名前の手首を掴んで自分のほうへと引きつけた。雨のせいでしっとりとした名前の頬がボクの胸に当たる。驚いて見上げてくる名前に、その頭上から黒目だけをそちらに向けて睨むと少々怖気付いた。そんなただならぬ状況を傍で見ていた石垣くんと水田くんは、何やら耳打ちをしてこっそりと部室のドアを開け、渡り廊下へと出て行ったようやった。


「なぁ、御堂…」

ボクの名前を呼ぶ前にとっととその口を塞いでやった。口を開いていたせいで簡単に奥まで舌まで入る。うぐ、と小さくえずいてボクを突き放そうと握り拳を叩きつけてくる。上から半分まではだけた制服のボタンに手を掛け残りのボタンも外すと、襟元を引っ張り肩の下までずり下ろした。ワイシャツも肌も濡れているせいで滑りが悪くてビリッと生地が伸びる音がする。そんな事もお構いなしに壁に追いやって深いキスを繰り返すと、ボクの胸元に手を掛けるその力が次第に弱まってきた。

「おかしいと思わんの。フツウ下着姿なんか見せへんで」
「…ご、め」
「許さへんよ。考えが甘すぎるわ」

鼻がぶつかるくらいの至近距離で見つめながらそう言って、舌を唇から鎖骨へと這わせた。密かに甘い吐息を漏らすのを聞いて、鎖骨あたりを口の先で吸い上げる。ちくりとするその痛みに声を上げる名前の口の中に中指を入れて生温かい舌を撫でると、いやらしく制服の裾からはみ出した自身の太腿をすり合わせた。

「やらしいなぁ」
「…っだれ、のへいやと思っ」
「名前のせいやろ。これはお仕置きや」

口元を指で横に引っ張ったまま吸い付くようにキスをしながら名前の背中に指を立ててなぞる。震えたつ名前の目尻に涙が浮かぶのを見て唇を離すと名前は「ごめんね」と呟いた。

「ボク以外にこんな事されたいん」
「ううん。御堂筋がいい」
「…ならもう少し考えて行動しいや」
「うん、ごめんなさい」

そう言って名前のほうからボクを引き寄せてキスをしてきた。名前なりの精一杯の謝罪。これくらいで許してあげるかと思いながら額同士をこつんと合わせると名前が「とりあえず着替えようかな」と微笑んだ。ボクが見といてげるわと言うとダメだと怒られる。…なんでボクはあかんのやろか。腑に落ちないまま渋々部室を出ると、すぐ近くに石垣くんと水田くんと、それから他のザクも揃って焦った様子で言い訳をしてきた。

「あ、いやその、別に様子を窺ってたわけやないねん」
「そうそう!俺らは二人の心配をしてやなぁ、石やん?」
「そうや!それで仲直りしたんか?御堂筋」

もはや盗み聞きしていたことを隠すつもりがないらしい。勝手に盛り上がっているのを無視して早く練習を始めようとその場を離れた。その日こっそりと石垣くんと水田くんの練習メニューを少し多めにしたことに、二人は全く気づいていなかったようだった。

140902
シロさん



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