入学当初の俺はよく周りの奴らに恐がられたものだ。内面なんて知りもしねェでヤンキーだのチャラいだの、好き勝手言われてはそれに対して反論する気も起こらなかった。チャリ部に入ってだいぶ丸くなってからは周囲の反応は多少はマシになった…気がする。それでもあいつだけは変わらぬままで出会ったあの時から俺と対等に、いや若干小馬鹿にした様子で接してくる。女のくせにそこらの貧弱な男より強くて男前。男勝りなんてものじゃねェ。初めて会ったときは俺と同んなじニオイがして俺から話しかけると「当たり。俺もヤンチャしてたから」と笑う苗字に目を奪われた。ハッ女のくせに「俺」かヨ。変な女ァ。それから自然と気に掛けるようになって気付いたら好きになっちまった。

キャッキャと猿のように群れる女子達の視線の先は剣道部。その黄色い声援といったらあまりに凄かったのでどこの誰だと覗いてみると垂には白で苗字と大きく付けられていた。

「苗字さん頑張って!」
「あ…ありがとう」

嘘だろ。女子にチヤホヤされてんじゃねーの。いくらヤンキーあがりの男女だからって…なァ?と東堂に振ると「そうだな」とやけに低い声で頷かれた。…オイオイ、女に嫉妬してんじゃねェヨ。

「認めんぞ!何故あんな女に俺のファンを取られなければならんのだ!」
「…イヤ、別にお前のファンかどうか分からないじゃナァイの」

気に食わん!と東堂がそそくさと去るのを追いかける。すると後ろから「荒北」と俺の好きな声で呼び止められるものだからすぐに振り返った。面を取って汗で前髪が張り付いている苗字。長い漆黒の髪を高い位置で一つに結っては尻尾のように揺れるポニーテール。その姿は男前というよりはどこか女らしい気品があった。

「凄い人気だな」
「…なんだかね。日に日に応援してくれる子が増えてな」

フーン。少し困ったような笑い方をしているのは多分、そういうことだろ。これじゃ集中したくても出来ねェよな。

「苗字…もしかしてそういう趣味ィ?」
「ん?何がだよ」
「…女が好きかって話」

すると思いっきり首を横に振って否定された。「そんなことはない」と。フーン。俺はてっきり女が好きなのかと思ったヨ。

「お、俺だってちゃんと男を好きになる」
「フーン。じゃあアレか。ホモか」
「ホッ?!…俺女だし」
「なら俺にも望みはあるわけだよなァ」

…は?お前何言ってんだ、と言わんばかりの表情をされた。別にィ、こっちの話だヨ。

「俺は、俺より男らしい奴が好きだ」
「そんなの俺以外いないんじゃナァイの」
「お前は話し方がオカマだから駄目」

オカ…?!思いっきり睨むと冗談だ、と笑われた。…冗談に聞こえないんだけどォ。

「…まぁ、お前みたいな奴は嫌いじゃないけど」

そう言ってはスポリと面を被ってしまったので、面の下の表情は読み取れなかった。それってどういう意味。言い終わる前に「じゃあな」と去っていってしまった。オイオイ、思わせぶりな態度なんて随分小悪魔なことしてくれるじゃナァイ?
ふつふつと苗字に対する想いが膨れ上がった俺は、次苗字と会った時には気付けば告白していた。

「お前のこと好きなんだけどォ」

ハ、何言ってんだ俺。自分でも驚いたが後悔はしなかった。本心だから、俺の今の気持ちだから。「付き合ってほしい」我ながら自信のない物の言い様だなと思ったがこれが俺の精一杯だった。目の前の苗字の顔はそれはもう真っ赤に茹で上がって、今まで見た中で一番女らしい表情だった。早く返事が欲しかった俺は「で、返事は」と催促すると、ただ一回、こくりと頷いてそのまま黙って下を向いてしまった。

惚れた腫れた

「#オリジナル」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -