翔の所属している自転車競技部が珍しくオフだと聞いたので光の速さでメールした。「翔いまどこ!!!」感嘆符3つはさすがにやり過ぎたかな、と自己嫌悪に陥っていたのもつかの間。翔にしては早い返信で「家」とだけ来た。たった一文字の返信。これだけで翔らしさが伝わってくるのだから言葉ってすごいな、と感心した。


「…いくらなんでも早すぎと違う」
「チャリぶっこいできた!インハイいけるかな?」

肩で息をしながらジョークをかますと「アホ言わんと早う入り」と家に入れてくれた。何度か来たことのある翔の親戚の家。最初は邪魔になるだろうと遠慮していたけど、おばさんやユキちゃんも気さくでとても良い人だ。翔君が女の子連れてきた、とはしゃいではそれから仲良くしてくれている。

「暇だろうかと思って来てあげたよ」
「ほうか。イヤイヤ来たなら帰ってええで」

ウソですごめんなさい。どうか追い払わないで。わざとらしくしがみ付いて泣き真似をすると「冗談や」と優しく頭を撫でてくれた。その仕草にきゅんとしてキスをねだると無表情でしてくれた。その不器用ささえ愛しい。

「リピートアフターミー」
「……。」
「名前ちゃん」
「名前ちゃん」
「可愛い」
「…可愛い」

くだらないこのやり取りにもちゃんと応えてくれる。翔は本当は優しいこと、知ってるもん。

「好き」
「…好き」
「名前ちゃん好きやで」
「…何がしたいん」

ああ、惜しい!と指をパッチンと鳴らすあたしを不審な目で見る翔。だって翔、あまり好きとか言わないんだもん。

「言わんでもわかるやん」
「そうじゃない!わかるけどそうじゃないの!」

分かるんかい。なんや名前ちゃんえらい自信家やね。…ほらまたそんな事言う。むす、とすると「ご免な」と尖らせた口先にキスされた。狡い。こんな事されたらきっとどんなことでも許してしまう。翔の隣が心地よすぎて、ふぁあと一つ大きなあくびをした。近くにあったクッションを引き寄せてはそれを枕にして横になった。

「寝るん」
「んー少しだけ、お昼寝」

翔も隣どうぞ。と横をポンポンと叩くと意外にも素直に隣に寝転んだ。嬉しくて抱き着くと、頭を丸ごと翔の腕の中におさめられた。そこで一気に眠気があたしを襲う。寝付きはいい方である。きっとこのまま一眠りするんだろう。

「好きやで、…名前ちゃん」

なんだかとっても良い夢をみた。それから小一時間して目が覚めると、何の夢かは忘れてしまっていたけれど。なんだったかな、と翔に聞くと「夢やなかったりしてな」とこれまた無表情で言われた。

まどろみの中で愛が聞こえた

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