8月の終わり。まだまだ暑い日が続くというのに、冷房のきいてない部屋にある折りたたみテーブルの上には一人分の教科書とノートが無造作に開かれていた。僅かに癒してくれるのは足元に置いてある扇風機のみ。ロードの雑誌に夢中の翔を盗み見ると目線は変えないまま「ちゃんと解き終わるまで集中しいや」と言われてしまった。この男はいくつ目が付いているのか。

「解らへん」
「…どこが」
「うーん全部」

ハァァ、と盛大な溜息をつかれた後に「次のやつから先に解き」とだけ言ってまた目線を雑誌に戻した。む。ちっとも相手にしてくれない。私はおもむろに着ていたパーカーを脱いでキャミソールになると扇風機の前に近寄った。暑ぅい。そう言って翔のほうを見れば一瞬で黒目がギョロリと雑誌に向き直した(ように見えた)。今見られてたのかな。ああ涼しい、とわざとらしく大きく胸元をハタハタ扇ぐと雑誌を閉じる音がした。いつの間にか翔は私の隣に座ってきて「どこが解らへんの」と優しい口調で聞いてきた。気分を良くした私はすぐに教科書を手にとったが、その手を掴まれて引き寄せられると右耳をベロリと舐め上げられた。

「ひっ……」

すると次は噛み付くようにキスをされて呼吸の仕方を忘れた。「もう少し色気のある反応しや、名前ちゃん」そう言って愉しげに笑う翔の心中はわからないまま、また唇を奪われる。目を閉じて体を預けるとええ子やね、と静かに組み敷かれた。どうしたん、翔。そう言うと「しらばっくれるぅん」と服の裾から忍ばせてきたのは細くて長い指。

「名前ちゃんが誘ってきたんやんか」

三度目のキスは優しいものだった。二人の吐息が交わるなか、外で鳴く蝉の鳴き声が少しうるさく思えた。

遠くに霞む蝉の音

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