∴寝言が色っぽく聞こえる
遠征帰りのバスの中。鳴子達がワイワイと騒いでいる中、一番後ろの席でマネージャーの苗字の横で大人しく窓の外を眺めていた。バスに乗り込んですぐは苗字もそれなりに喋りかけてきては相槌をうっていたが急に静かになった。横を見てみると可愛らしい寝顔がこっちを向いていて心臓が高鳴る。
「…うぅ、ん」
横を向いたら今にもキスできそうなほど近くに苗字がいる。ゆっくりゆっくり何もなかったかのように前を向き直すとコテンと左肩にもたれかかってきた。
「んんっ…う…」
自ら体勢を直そうと身体をよじらせるのがまた酷く色っぽい。釘付けになっていると耳元に息が当たって、顔から火が出そうなほど熱くなった。
はあ、と熱い寝息を一発吐かれると今度は身体が跳ねた。これはまずい。一刻も早くこの状況を打破しないとこれ以上は…反応しかねない。
「苗字…苗字っ」
できるだけ大声を出さないよう、至近距離で必死に呼ぶ。
「ん…?だ、だめぇ…」
「俺のほうがだめだから…」
「やっ…もっと、」
「苗字…頼むから…」
これ以上煽るようなことしないで。肩を揺すっても起きようとしない苗字は異様に寝起きが悪い。頼むから起きてくれ。そう願ったとき、バスが曲がり角に突入し、苗字が俺のほうへなだれ込んできた。抱きとめる余裕もなくそのまま俺の腰元に被さってきてはやっと目を覚ました。
「わ、ごめん青八木」
「…早く退いて」
「!ごめんね!」
「あとしばらくはこっち見るなよ」
え、何で。そう聞かれる前にいいから、とトドメをさすと言う通りにしてくれた。今苗字に見られたら確実に嫌われる。
「ん?なんだ青八木、足にジャージなんか掛けて。寒いのか?窓閉めるか?」
「じゅ、純太…。うん、頼む」
'140323 pike
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