「肝試しの正しい楽しみ方」

宿に戻って夕飯と風呂を済ませると、クラスごとに外に集まって今日のメインイベント、肝試しが行われることになっている。風呂上がりは旅館の浴衣を借りてそれに身を包む。簡素な作りがまた学生らしい。女子生徒を見ると何人か胸元がゆるい学生が居たが、女の生徒指導部の先生にこっぴどく注意されていた。別に言いんじゃナァイ。見せたいなら見させてやっといて。そーいうのも意図的だっての分かっといて男って生き物は見ちまうんだから正直だよな。まあ、そういう奴は大概そーいう目で見るだけであって、恋愛対象とかいうのとはまた別だ、別。そこの所分かってないようならとんだおバカチャンって話だ。

「おー荒北。奇遇だな。」

出た東堂。こいつ、慣れてやがる。浴衣の着こなし方とかさすが旅館の息子だな。…そういやこいつ、怖いの苦手だったような。

「お前誰と周るんだよ?」
「うむ。ファン達に申し訳ないからな、余り者の男3人で周ることになった。いやー華がなくて実に残念だ、はっはっは」

またな、と手をひらひらさせて去って行った。さてはあいつ、不正したな。きっと女子に情けない姿を見せたくないとかそういう理由だろ。


「…あ。荒北」
「…、」

集合場所に向かう途中に苗字と会った。不覚だ。浴衣姿の苗字にグッとくるなんて。なんでそんな髪の毛半乾きなんだよ。無駄に色気振りまくなヨ。そうだ俺頑張れ俺ちょっとぐらい褒めるところだココは。

「髪ぐらいちゃんと乾かせヨ。男かテメーは。」
「うっ、うっさい!荒北お前こそ何その着方、だらしない。」

…間違えたァァ!違ぇ。こういうこと言いたかったんじゃねェ。それでもすかさず、あァ?人の事指ささないでくれナァイ?暑いから仕方ないだろ。と反論してパタパタ胸元を扇ぐと目を逸らされた。…ちっ。なんなんだヨ、上手くいかねぇ。

「ではペアで固まってくださーい」

委員長の声が響く。分かってる。ペアはこいつだ。肝試しの形式としては、二人で一つのろうそくを灯しながらお墓を一周してまた戻ってくる、というルールらしい。ペアがこいつとじゃなかったらこの上なくくだらない遊びだが、今回はもう楽しみで仕方ない。すぐに順番が回ってきて、俺がろうそくを持って先を歩く。後からついて来る苗字を横目に主導権を握っている感じがちょっと楽しかった。

「お前怖いの平気ィ?」
「…怖がっているように見える?」
「…見えねェな。むしろ幽霊のがお前を」
「それ以上行ったら火炙りの刑ね」

おーコワイコワイ。周回コースも多分中盤に差し掛かったところで苗字が石ころにつまづいていた。それを見兼ねた俺は半分ヤケクソに苗字の手首を引っ張った。「!ちょっ、」こいつの顔は見えないが多分驚いているんだろ。黙っとけヨ。そういうと本当に黙りこくってしまったので少し困った。辺りが真っ暗で良かった。俺は自分の顔が見られないように火を少し遠ざけた。ていうか手首細いな、思ったより。やっぱ、女なんだよな。髪半乾きでも、女だ。思わずごくりと喉が鳴ったのはバレていないと信じたい。

「あー…お前、どんなのが好きなワケ?」
「…は?何が?」
「ッダァー!男!の好みだっつの!」

ああもう本当に夜で良かったマジで。えーとか考え込むなよ早く答えろっつの!

「あー…素直な奴、かな。」

…終わった。とりあえず、俺じゃないことは確かだ。明白だ。フーンなんて興味なさげにしてみても心の中は大荒れだった。俺、頑張ったよな、神様。


「あ、荒北は?」
「…お前以外」
「ぶっ飛ばすぞ」


'140224 pike


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