「京都パニック」

「うぉええ…」
「名前、大丈夫?」

サヨちゃんに背中をさすられながら新幹線を降りた。やっと京都へ着いたらしい。実は乗り物は大の苦手で、新幹線の中周りが騒いでいるのにあたしだけ死んだように横たわっていた。外の空気を吸うと、だいぶマシになってくる。天気は快晴。晴れ女のあたしに感謝することだ。まずは団体行動で観光した後、自由行動になった。まあ決まってサヨちゃんと周るんだけど。ふと遠くを見ると荒北が他のクラスと戯れている姿が見えた。あれが部活の人達なんだろうか。…どうでもいいか。そういい聞かせてはサヨちゃんの後ろを追った。

「見てーこれカワイイ!」
「…サヨちゃんもうお土産買うの?」
「夕方だと混み合うでしょ?」

なるほど納得していると不細工な置物に目が行った。なんじゃこれ。触れようとすると他の人の手も伸びてきた。

「…なんだよ荒北かよ。」
「あン?この置物、苗字にそっくりだなと思ってヨ。」
「はぁ?こんなブサイクじゃないし!」

バチバチと火花が散る中カチューシャをした男が入ってきた。

「荒北が女子と話しているのは珍しいな!…もしや君が苗字さんか?」
「…そうだけど。」
「いやー話はいつも荒北から聞いてるぞ。荒北が気に入って」
「東堂お前それ以上言ったらぶっ殺す」

冗談だ、と楽しそうなこのカチューシャは東堂というのか。あーなんか聞いたことある。モテるんだっけこの人。ていうか荒北さっき何言おうとした?と聞くとうっせーブス!と怒鳴られてしまった。本当、口悪いな。すると東堂が苗字さんも一緒に周らないかと提案してきた。サヨちゃんに聞くと無言で頷かれたので何故か自転車部の人たちと一緒に周ることになった。

「苗字さんは中学の頃ヤンチャしていたらしいな。」
「へぇーそうなんだ。あ俺、新開。」

もくもぐと何か口に含みながら話し掛けてきたこの人は新開というらしい。それよりもちょっと待て何でバレてんの?バッと荒北を睨むと「…俺じゃねェよ」とシラを切らした。お前だろォ、お前しかいないだろォ…。「しかしそんな風には見えないな!」「うんうん」と言ってくれた東堂と新開に気を良くしたあたしは、簡単に気を許してしまった。やっぱこの荒北と連むだけあるな、いい人ばかりだ。そう荒北に伝えると「どういう意味ィ…?」と目が笑っていなかった。うん、大丈夫、ばっちり伝わってるわ。

すると何やら離れたところで東堂が抹茶をすすっているのが目に入った。…似合うな、抹茶。昔から人が持っていると自分も欲しくなる性で、自分の分も買うとそこら辺の腰掛けに座った。…何故荒北がいるんだよ。

「お前…真似すンなよ、さっきから!」
「違うし!東堂の真似しただけだし!」

とっさにここは街のど真ん中だという事に気付いて少し声の音量を下げた。これ飲み終わったらすぐサヨちゃんのところに行こう。そう決めて周りを見渡すと、サヨちゃんはおろか東堂や新開の姿が見当たらない。

「あれ?どこ行ったんだろ。」
「あーまあ、歩いてりゃ見つかるだろ。」

そそくさと進んでいく荒北の後を追いかける。ちょっと待って、今あたし…荒北と二人っきり?まじかよ、デートじゃん!うわああ!とりあえず高ぶる気持ちをどうにか抑えて、嬉しいような恥ずかしいような、複雑な心境のまま、全く知らない京都の街を歩いて周った。


'140222 pike


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