「かっこ悪くて言えない」

あたしがこの目の前の元ヤン野郎のことを気にかけているなんて、口が裂けても言えない。まあ、元ヤンに関しては人の事言えないんだけど。こいつのことは実は中学時代から知っている。野球部のくせに、ヤンチャな連中に連んでる同級がいたから、存在だけは知っていた。見た目によらず、案外真面目なんだなとか思ってたけど、あれ?こいつ中学のときケガして引退したんじゃなかったっけ?あたしと荒北の間には湿っぽい会話なんてのは似合わないので、ケガのことなんか聞けずにいた。

荒北と高校で出会ったのは去年の4月。初対面のあたしと会うや否や「お前、苗字だろ。」なんてあたしの名前をぴったりと当ててきたのでびっくりしたのを覚えている。

「あれェ?でももっとヤンチャだったよなァ?スカートなんかこんな短くて髪も金髪で…」
「ちょっとストップ、ストォォップ!」

ベラベラと喋る荒北の頭を寄せては周りに聞こえないよう耳元で、あんま喋んじゃねーぞコラとドスを効かせて脅してやった。ホラ、やっぱ噂どおりだわとやけにニヤつく奴の表情は今でも思い出してイラっとする。

「ってことで更生したんで、昔の事は周りにバラさないでね。」
「ンな事言ったってどうせバレるだろ。」
「そーれーでーもーいいの!」

アーアー分かったヨ。じゃあな、と言葉を交わすと、しばらくはそれっきりだった。ところが今年2年生になってクラス替えをすると、この男と同じクラスになってしまったのだ。おー苗字、よろしくナ。なんて相変わらず上から物を言ってくる荒北だったが、あたしはちょっとだけ密かに喜んだ。ケガのことは知らないが、自転車競技部に入ったことを知って、あたしはささやかに応援するのだった。


'140220 pike


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