「荒北と元ヤン女」

俺の人生に快挙が訪れた。なかなかの名門校、洋南大学に受かってしまった。合格発表には、もしもの為にと名前チャンとは別行動にしたが(片方だけが落ちると面倒だからな)その必要は無かったみたいだ。何度も何度も番号を確認して、それから人目もはばからず歓喜の声を上げた。興奮冷めぬまま名前チャンのケータイに「合格!!!」とだけメールを送ってやった。

この騒がしい会場にどうやら名前チャンも居たらしく、場所を特定してどうにか落ち合うことができた。

「やーすーとーもー!」

満面の笑みを浮かべて凄い勢いでこっちに走ってくる名前チャン。そのまま減速することなく俺のほうへ突っ込んでくるのを慌ててガシィと掴んでやった。白昼堂々、この女ときたら大胆にも抱き付いてきやがった。

「おめでとう!」
「おーありがとヨ」

名前チャンはどうだったんだ?恐る恐る聞いてみるとすぐにケータイを取り出して、自分の番号であろう数字を指差して泣いている名前チャンの写真を見せられた。

「ブッ…泣きすぎだろォ」
「嬉し泣きだよ!」
「わーってるヨ!…オメデト」

くしゃくしゃと髪の毛を乱すように撫でると、みるみるうちに涙ぐむ名前チャンを見て咄嗟に距離をとる。な…泣くんじゃねーぞ?ただでさえチラホラと視線を向けられているのに、ここで泣かれては内心穏やかではなかった。





「チッ人多すぎだろ…電波悪ィ」

4月。卒業を名残惜しむ間もなく、大学の入学式を早くも終えた。一ヶ月とちょっとの春休みなんて、名前チャンや福チャン達と遊び呆けていたらあっという間。まあアイツ等とも近々会えるだろうとそこまで寂しがる必要も感じなかった。とりあえず、無事同じ大学に通うことになった俺のカノジョを探しているんだが…この人の多さではなかなか見つかりそうもなかった。今日は洋南大学の新入生歓迎、なんたら。名前チャンに誘われて仕方なく顔出しに来たが、本人がいない。周りでは新入生を自分達のサークルやら部活やらに勧誘するために、先輩達が必死に声を張り上げていた。

「やっぱ、ここに来ちまうんだよな…一年荒北入りまーす」
「こんにちはー」
「お、おう…っておう?!」

何食わぬ顔で部室の椅子に座っている名前チャン。こんにちはじゃねーよ。つか電話出ろヨ。

「なんでここにいんのォ?ここチャリ部だヨ」
「自転車競技部に入ることにしたの」
「…ハ?マジで?」
「うん、もちろんマネージャーとしてね」

多分先輩の物だろう。ちゃっかり洋南大のジャージを羽織って、見た目だけはマネージャーそのものだ。

「なんでマネージャーなんのォ?」
「…インハイのあんた見てさ、心打たれたんだよね。靖友をそこまで本気にさせるロードって凄いなって、実は前から興味持っちゃってて」

ふと長机に置かれたノートを手にとって捲ると、つらつらとレースやロードレーサーについて殴り書きした文字が何ページにも渡って書かれていた。ニヤつく俺に少し照れた様子の名前チャンにノートを奪われる。

「フーン…そーなんだ」
「な、何?恥ずかしいから今まで言わなかったんだけど」
「なんだ、その…結構嬉しいわ」

ガシガシと後頭部を掻きむしる俺に名前チャンははにかんだ。

「あ、あと部活では名前で呼ばないでね」
「…ハ?何でだよ!」

あれか、恋愛とかそういうの持ち込みたくないってか。俺だってそんな人前でイチャコラする趣味はねーんだけどォ。


「マネージャーと呼んでくださる?アラキタ選手」
「ッハ、上等じゃナァイ」

誰も居ない部室で笑い合う俺達。これからもこうやって名前チャンとずっとバカやっていきたいなとか、くせー事考えたりして。まァたまには平和ボケもいいよな。

「俺さ、バカで泣き虫で意外と健気なお前が大好きだヨ、名前チャン」
「だからマネージャーって呼べっつってんの!」


END


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