「狼さんは上機嫌」

「お、新開じゃねーか」
「おはよう靖友。今朝は機嫌が良いな」

出会って早々に俺の心情を察するとはさすがに鋭い男だ。そうだヨ、俺は今最高に気分が良い。やっと、やっとだ。この一年間の我慢がやっと報われたんだ。機嫌が悪いわけがねェ。

「…したのか」
「おー」
「おめでとう靖友!食うか?」
「いらねェよ!つかお前、部活引退してもパワーバー常備してんのかヨ」

少し残念そうにパワーバーをポケットにしまう新開を横目に、ふと昨日の出来事が脳裏に浮かぶ。幸せパラメーターが振り切れている俺は今何されてもきっと怒鳴ったりはしな

「…ッ!テメェ新開!」
「悪いな、幸せボケしているお前を見て無性に腹が立った」

だからって膝の裏蹴ることないんじゃナァイ?もぐもぐと口を動かしながら悪びれる様子もない新開に舌打ちした。(チッ結局怒鳴っちまったヨ)





「名前、おはよう」
「おおおおはようサヨちゃん」

後ろからサヨちゃんに話しかけられただけで心拍数は上昇してギギギ、とでも音が鳴りそうなくらいぎこちなく振り返った。…どうしたの。サヨちゃんが冷たい表情であたしの顔を見る。

「きき、きの昨日やすと…あら、あらき荒北とうわああぁぁあん」
「ちょ、名前おおお落ち着いて!」

あたしにつられてサヨちゃんまで焦り出して、場は騒然となった。とりあえずひと気の少ない階段下のところまで避難してサヨちゃんになんとか最後まで報告をすることができた。ああ、顔から火が出そうなくらい恥ずかしい。するとサヨちゃんは眩しい笑顔でおめでとうって言ってくれた。

「おめでとう、恥ずかしがる事じゃないよ。幸せな事じゃない」
「う、ううんうん」
「…どっち?」

クスクス笑うサヨちゃんに、なんだか大人の色気を感じた。幸せ…確かにそうかも。親には話せない事も、こうやって親友には報告できる。今はその事実のほうがなんだか嬉しくて、あたしもつられて笑った。

「ちゃんと避妊した?」
「うわあぁぁあん声でかいよぉぉしたよぉぉ」





授業終了のベルが鳴る。ようやく顔の火照りが冷めたところでセンター試験対策のノートを開いた。そろそろ本腰に入らないと。そう決心した時に、教室後ろの入口のほうで人の悲鳴が聞こえた。黄色い悲鳴じゃなくて、ヒィッ!とか、人が恐がるほうの悲鳴。

「名前チャァン」
「や、やす…荒北!」

さっきの、あんただったの。まぁ確かにこの学校で恐がられるっつったら、靖友くらいしかいないけど。

「俺も洋南大受ける…からァ」
「えっ」
「その、勉強教えてくんナァイ?」

段々と声が小さくなる靖友がやけに可愛らしく見えた。


'140710 pike


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