「思い出を作ろうよ」

一応、頭の片隅にはあったんだよなァ…進路の事、洋南大学を受けるっつー目標はな。けど今の学力じゃ到底手が届かねェし、そもそも進学なんて俺の柄じゃねーし周りに言いふらすのは小っ恥ずかしい。苗字が洋南大学へ進学するってのは正直驚いたが…まァまだ俺の事は自分の心中にとどめておくことにした。

部活を引退してからは苗字と一緒に居る時間は増えた。毎日のように一緒に帰ったり、近くのカフェやゲーセンに寄り道もするようにもなった。一緒に居る時はそりゃ楽しいが、卒業までのカウントダウンはもう始まっていると考えるとなんだか複雑にもなった。…ッたく、付き合い始めてから俺もずいぶん素直に気色悪い事を思うようになったもんだ。我ながら女々しくて嫌になる。
まーなんだ、悲観的になっていても仕方ねェから、とにかく今は今しか出来ねェ事をやっておきたい。具体的に挙げればキリがねェけど、例えば、アー…その、率直に言えば

「セックスィー!ねー見てよ荒北この水着…って何むせてんの?」
「…何、でもねェヨ!」

思わず口に含んでいたベプシを吹き出してしまった。焦った、ピンポイントで心を読まれたかと思った。そう、今しか出来ない事…でもねェけど、やりたい事。

…まだしてねェんだヨ!もう付き合ってから1年経ったというのに、まだ事に及んでいない。俺がヘタレだから?んなはずはねェ。今までは俺が部活一直線でそういう機会も実に少なかったからだ。そうだそうだ。だが今はどうだ、時間はある、そして今現在俺の部屋で二人きりときた。これ以上ないシチュエーションで今か今かとチャンスを伺っている俺がいた。

「なァ名前チャン」
「んー?」

さっきからずっと眺めている雑誌からは目を逸らさないまま俺の声に反応する。俺のベッドにうつ伏せになって両足を宙で仰ぐとは警戒心のかけらもない。

「パンツ見えてるヨ」
「げ。見ないで変態」

やっと雑誌から目を離したその瞬間、俺も苗字横に並んで寝そべった。頬杖をついたままじィ、と至近距離で見つめると気恥ずかしそうに目を逸らされた。

「な、なに?」
「名前チャン、俺よく1年も我慢したと思わナァイ?」
「何を?」
「エッチ」

ビリリ、と雑誌が真っ二つに破けた音がした。俺の目を見たまま静止しているから、オーイと声をかけると口をぱくぱくと動かして「ちょ、わ、えっ」とかなんとか吃り始めた。

「聞こえなかったァ?だから、エッ」
「わかったわかった、わかったからぁぁ!」

真っ二つに分離した雑誌を俺の口元に押し付けられてベッドから落ちそうになる。はぁはぁと息を乱す苗字の顔は真っ赤だ。意外と耐性ないよな、コイツ。その茹で上がった顔を引き寄せて唇に吸い付いてやった。もう待てねェんだヨ。

「イヤだったら言えヨ」
「イヤ」
「……はやくねェ?」

頭を左右に振る苗字。なんで、そんな嫌がるんだヨ。そう聞くと小さい声で「恥ずかしい」と顔を俺の胸に押し付けられては、完全にやられてしまった。畜生、可愛いすぎだろォ。

「でもや、靖友なら、いい…かも」

そう言って恥ずかしがりながら触れるだけのキスをされては、簡単に俺のリミッターは外れるのだった。


「名前チャン」
「靖友……やっぱ無理!恥ずかしい!」
「ちょ、そこは我慢してェ」
「無理無理!」


'140707 pike


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