「乙(男)女の葛藤」

最後に二人で遊んだのは、ちょうど2ヶ月前の今日。すっかり冬になってしまって、世間ではクリスマスを目前にして騒いでいる。

「クリスマス、名前は荒北君に何あげるの?」
「クリスマス…?」

そんなのどうもしないしー。なんで日本人がキリストの誕生日祝わなきゃいけないの?ハハハ。そこまで言ってサヨちゃんの顔を見るとドン引いていた。

「あのね…プレゼント渡せる相手がいるだけでも幸せに思いなさい!」
「えっ…と」
「恋人達の一大イベントだよ?まさか何もしないとか言わないでよね」
「……ハイ」

意外だった。まあサヨちゃんは元々女の子らしいから、そういうイベントは大好きだ。去年は二人でパーティーしたっけ。しかしそう言われても荒北にあげる物など何一つ思い浮かばなかった。


「欲しい物ォ?」

そうだ。本人が欲しい物をあげるのが一番手っ取り早い。何だ、早く言え。恥ずかしさを貧乏ゆすりで紛らわす。するとニヤリと笑いながらこちらを見られた。

「金」
「ぶっ飛ばすぞ」

思わず出た鉄拳が荒北の鞄によって防がれた。

「っあんだヨ!つーかクリスマスのプレゼントだったら要らねーヨ?面倒だからァ」
「……なん、だと?」
「…あァ、いや、なんつーかお返しが面」

テメェ人が恥を偲んで欲しい物は何ですかってご丁寧に聞いてんのに何だよその態度はあァ?!気ィ利かせて「お前がくれるもんならなんでも嬉しい」とか言えないわけ?ハッ、本当ツマラナイ男だわ。プレゼントもらえる相手がいるだけ感謝しろブァァアカ!せいぜい後悔するがいいこの歯茎男ぉぉぉぉ!

言いたい事を全て吐き出すと、ビッと中指を突き立てて教室を出て行った。この際周りの反応なんてどうでもいい。なんだか無性に苛ついた。面倒、だなんてそこまで言わなくてもいいじゃんかよ。ドガッと傘立てを蹴り上げると知らない男子が肩を震わせた。…いかん、物にあたるのは駄目だ。倒れた傘立てを丁寧に起こした。

仲直りしないままクリスマス当日を迎えてしまった。冬休みに入っているのでこの日は一日中家でゴロゴロ。何回かケータイを開いては新着メールを問い合わせてみても、一通も奴からの連絡はなかった。今日も、部活なんだろう。邪魔にならないようにとあたしから連絡をとることは少なかった。結局何もないままクリスマスが終わってしまいそうで、サヨちゃんに何て言い訳しようか。こんな事ならサヨちゃんとパーティーするんだった。そんな事を考えて深いため息をつくと、いきなりケータイの着信が鳴りだした。驚きのあまり身体が仰け反る。

外出て来い

メールを見てすぐ、家の二階から窓の外を見ると荒北の悪い目付きがこっちを向いていた。驚きながらも急いで外に出る。階段を降りる途中で踏み外しそうになった。

「な、なんでここに…」
「お前の顔が見たくてヨ」
「…、はぁあ?ばばばバカじゃないの」
「ブッ!冗談だヨ、バァカ!」

腹抱えて笑うからムカついてドロップキックをかまそうとするが、難なくかわされた。ん、と視界いっぱいに何かを見せられる。

「え、何?」
「クリスマスプレゼントォ。お前欲しがってただろ」

え、は?いや、別にあたしが欲しがってたわけではなくて。むしろ荒北に何あげようか迷ってただけなんだけど。うそ。びっくりして目をゴシゴシとこすってもその光景は変わらなかった。夢ではなさそうだ。

「ほら、要らねェのォ?」
「いいい要る!頂戴します!」

受け取ると、綺麗にラッピングされた袋を容赦無く剥がしていく。お前もうちょっと丁寧にしろヨ、とか聞こえたけど関係ない。そんなことより早く見たい。

「…………何これ」
「何って、ロードのステッカー」
「……誰が選んだの?」
「あ、あァ?いや、東堂がお前が貰って嬉しい物をやれとか言うからヨ…それにした」

…どうしよう。すげー要らないんだけど。あたし自転車乗らないし。何キレイにラッピングまでしてんの。何だか寧ろ笑えてきた。ふふ、と笑いを溢すと荒北に不審な目で見られた。

「ありがと。大事に使うね」
「…おー」
「じゃ」
「…おー……ってあァ?!」

家に戻るあたしを呼び止めるから、何?と振り向いた。

「俺の分は?」
「え?あるわけないじゃん」
「…マジで言ってんのォ?」
「や、あんたが要らないっつったんじゃん」

そうだけどォ。と小声で縮こまる荒北。…まぁ、プレゼント貰えるとは思ってもなかったとは言え、何も返さないのは気が引ける。

「何が欲しい?」
「そーだな、……じゃあ」

ぐいっと引っ張られて唇を奪われた。そのまましばらく離れずに味わうようにキスをされた。最後に唇を一回り舐められて離される。

「これでいい」
「は、恥ずかしい奴!」

ニカッと笑う荒北の顔を見て、あたしも幸せな気持ちになった。


'140330 pike


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