「おうちデート」
昨日の会議の影響だとは思いたくねェけど、苗字が俺の部屋に来ることになった。学生寮だから狭いぞ、つっても言うこときかずに行く行くとはしゃぎだした。何がそんなに楽しいんだか。
「鍋でもする?」
「このクソ暑いのに鍋かヨ」
「えーいいじゃん文句あんの?」
「どうせなら冷たいのにしねェ?冷しゃぶとかそーめんとか」
「そーめんとか一人でやってろよ」
ピキィ、と額に青筋を立てる。じゃあ公平にジャンケンで決めようじゃナァイ。意地を張った俺は自然と握りこぶしに力が入った。
「肉とー豆腐とー…あ、何鍋にする?」
「…なんでも良いヨ」
ヒョイヒョイとスーパーのカゴに材料をいれていく。結局俺はグー苗字はパーで鍋をすることになった。「意地張ったときほどグー出しやすいしね」とかヤケに上から目線にまた腹立った。くそ。
「…お、お邪魔します」
「別に俺以外居ねーんだからいいヨ、そういうの」
「あんたに言ったんじゃないの、この部屋に言ったの」
…今日はヤケにつっかかってくんじゃナァイの。いつも通り靴を履き捨てて部屋にあがると後ろで苗字が俺の分まで靴を揃えていた。なんかそういうところは品があるよな。気付かぬフリをしたままスーパーの袋からゴソゴソと材料を取り出すと苗字がシンク下を開けて覗き出した。
「わー立派な電気鍋があるじゃん!」
「東堂達とたまにやるんだヨ」
俺の部屋が一番片付いてるとかなんとかで。それから準備を終えて早速鍋を二人でつつく。
「美味しー!」
「…暑ィ」
Tシャツを脱いでタンクトップ一枚になると苗字が慌てて目をそらした。「やらしー。見ないでくれる?」とからかうとうっせーハゲといわれた。…本当、可愛くねェな。
「ごちそうさまでした」
そのまま洗い物をしようとする苗字に「置いとけヨ」と言っても聞かずに食器を洗い出した。食器全部持ってきて、というなんとも母親のようなセリフに俺は頷くしかなかった。
「…ずいぶんと慣れてんのな」
「うちには出来の悪い兄貴が二人もいるからねー」
兄貴と呼ぶあたりやはり元ヤン女というところか。あー疲れた、と俺のベッドにダイブする苗字を見て自分の目を疑った。
「お前…そこベッド…」
「は?いいじゃん別にーふかふか気持ちいい」
きゃっきゃと猿のようにはしゃぐ苗字の上に覆い被さる。するとピタ、と動きが止まった。
「ちょ、荒北…なにして」
「ちょーっと自覚が足りないんじゃナァイの?名前チャン」
そう言って迫ろうとすると真っ赤な顔して思いっきりみぞおちを蹴り上げられた。ぐ…ウソ、だろ…こいつ力強すぎ…。本当に女かよ。
「ななな何やってんの!バカじゃない」
「冗談だヨ…ちょっとからかっただけェ」
「!信じらんない」
すっかり拗ねて俺と距離をとって座る苗字の機嫌を直そうと、距離を縮めて横に腰をかけた。
「悪ィって、機嫌直せヨ」
「うっせーバカ。ハゲろ」
こいつ…。名前チャン、と下の名前で呼ぶと少し照れながらこっちを向いた。そういう面白い反応するからからかいたくなるんじゃナァイの。
「目瞑れ」
「…は、」
「いいから!瞑れってェ」
俺がいいっていうまで開けるんじゃねェヨ。事を察したのか力いっぱい目を閉じる苗字を見てなんだか俺まで緊張してきた。それから右の頬に手をやって手短にチュ、と触れるだけのキスをくれてやった。すぐに離れると目の前には目を見開く苗字。
「お前、俺がいいって言うまで開けんなっつたろ!」
「だって仕方ないじゃん!無理!恥ずかしい!」
「俺だって恥ずかしいヨ!」
ハーハーと息を切らしながら言い合ってそれから苗字に大声で名前を呼ばれた。
「…あんだヨ」
「も、もう一回…」
しよう、と言い終わる前にその口を塞いでやった。…あんまカワイイ事言うんじゃねェヨ。
'140322 pike
もどる