「花火大会」

「もひひもひふ?」
「口に物入れたまま喋んなバァカ」

高校生活2回目の夏休み。荒北が部活を終えた頃合いを狙って鬼のように電話すると、どうにかこの花火大会に連れ込むことに成功した。人混みが嫌いな荒北はきっと断るだろうなとダメ元だったが答えは意外にも「あー分かったヨ」の一言だった。駅前の噴水で落ち合うことにしていて、待ち合わせの時間より早めに着くともう荒北はすでにいた。初めて見る私服は新鮮で、少し近付くと風呂上がりの良い匂いがした。

「っつーかなんで浴衣じゃねェんだヨ」
「ふん?」

お前、いい加減イカ焼き食い終われや。そう言われてがむしゃらに食べると笑われた。あいにく浴衣なんて可愛らしいものは持ち合わせてないんでね。

「アンタだって浴衣じゃないじゃん」
「なんで俺が浴衣着なきゃいけねーんだヨ、面倒くせ」

このワガママ野郎…。一瞬の苛つきは目の前の金魚に癒されて何処かへ消えた。300円払ってポイを手に取る。あたし得意なんだよね、金魚すくい。ひょいひょいと手元には10匹くらいの小さい金魚が泳いでいて気を抜くとあっけなく破けてしまった。あーあ。持って帰れるのは一人3匹までらしく、透明の袋に入れてもらって左手首にかけた。見て、荒北赤と黒が居てカワイーでしょ。ヘラッと笑いながら後ろを振り返るとそこに荒北の姿はいなかった。あれ?さっきまでそこにいたのに。キョロキョロと見渡すもさっきより人が増えて押しつぶされそうになる。ふと大きな音が遠くで聞こえてそちらを見ると花火が上がっていた。

「始まっちゃった…花火」

金魚の入った袋をちゃぷちゃぷ鳴らして来た道を引き返した。


「ったくどこ行ったんだあのバカ女はァ」

ちょっと目を離した隙に居なくなっちまった。ッチ。花火始まっちまったじゃねーの。しばらく辺りを探したが見当たらないのでとにかく待ち合わせた駅前の噴水に戻ることにした。…居たァ。オイ。呼ぼうとしたらなんか変なのと一緒じゃナァイ。やけに楽しそうで無性に苛ついた。

「オイ馬鹿女どこいってたんだヨ」
「あ、荒北!じゃーねハヤトまたね」
「おー!」

チッ。誰だよこいつ。ジロッと睨みをきかせるとやけに焦った顔しやがった。んな顔するぐらいならちょっかいかけんじゃねーヨ。苗字の腕を引っ張って手を繋ぐ。

「ちょ、荒北?!」
「最初っからこーすればよかったナァ」

指を絡める。細ェ指。イライラして思わず力が入ってしまう。痛いと言われて少しゆるめた。どんどん足を進めていくと花火がよく見える広場に着き、よく見りゃイチャついてるカップルがちらほらいた。

「お…怒ってる?言っとくけどあたしも探してたんだからね!」
「誰だよさっきのォ」
「え」
「やけに親しくしてたじゃナァイの」

自分で言うのもなんだが俺は今相当不機嫌だ。え、さっきのってアレ中学の時の友達ですけど。あっさり答える苗字にフーンとだけ言うと何?ヤキモチ?とニヤニヤされた。うぜェ。

「え、まじ?」
「るっせー黙れヨ!」

そう言うと本当に黙りやがった。…黙るなヨ。すると苗字がや、や。と何度も吃りだした。

「やす、とも…」

その時の苗字の顔は、花火のせいでよく見えた。照れ臭そうに少しうつむいて。その姿があまりにもこう、グッときたもんだから思わずその肩を引き寄せた。ぎゅうっと力を込めて抱きしめる。アー俺もそこらのイチャつく奴らと一緒じゃナァイの。

「るっせ、呼ぶなヨバァカ」

こんなに柄にもないことをしたのは、俺の顔を見られたくないからで。そのまましばらくは離せずにいた。

「荒北…苦しいよ(胸が)」
「ッハ、知るかヨ」


'140313 pike


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