「売られた喧嘩は買う主義です」

別にあたしのことを陰ながら好いてくれる人がいて、告白されるんだとか思ってもなかったけど。柄の悪そうな女3人組に囲まれるなんて想像もしてなかった。あれ、あたし何か恨まれるようなことしたっけ?

「えーっと…」
「ハ、来たわね苗字名前」

すーごい意地悪そうな笑みを浮かべる3人。今とてつもないスピードで頭回転させてるけど、何の用事なのかはさっぱり分からない。荒北の親衛隊?いやナイナイ。いつも売店のチキン南蛮バーガーあたしが奪取してるから?あれ美味しいもんね。うーんどっちも違う気がするけど目の前のお姉様方はかなりお怒りのご様子である。

「アンタとさぁ、隣の中学だったんだけど。覚えてる?」
「中学…?」

どうやらこのお姉様方とは隣の中学で、お姉様の当時の彼氏にあたしがちょっかいを出したことを今だに根に持ってるらしい。とんだとばっちりだ。誰よ藤木って。全然聞いたことないんだけど。

「とりあえず、一発殴んなきゃ気が済まないからぁ」

二人に両腕を押さえつけられた。え、何これ喧嘩?喧嘩なの?握りこぶしが飛んでくる。やられっぱなしは腑に落ちないのでこちらも大きく足を振りあげた。


遅い。何やってんだアイツ。もう5限目始まっちまったじゃねーか。なんだか落ち着かずに授業の内容なんて耳に入って来なかった。授業が終わると担任が教室に来て、苗字と仲良いサヨとかいう女が呼ばれていた。すると、慌てた様子で苗字の荷物をまとめ始めたからオイ、と呼びとめた。

「荒北君!名前、今保健室にいるらしいの」
「保健室ぅ?なんでだヨ」

いいから着いて来て、と荷物を持たされて女の後をついて行った。…なんか俺今すげーマヌケじゃナァイ?


「名前!大丈夫?」
「あ、サヨちゃん。と荒北」
「…お前どうしたんだよそのケガは」

ベッドに横になって頭に包帯を巻いた苗字がいた。へへ、ちょっとねーとかお前笑って誤魔化すなヨ!結構たいそうなケガしてるぞ。

「じゃあ私先に戻ってるね」
「ごめんねサヨちゃん!ありがとう」

ヒラヒラとドアに向かって手を振る苗字。で、何があったんだヨ。ツンツンと頭を突いてみると少し顔を歪めた。

「中学時代に恨み買ってた人達と喧嘩した…」
「喧嘩って…女かァ?何人」
「3人」
「さっ……お前な」
「だって」

勝てると思ったんだもん、と尻込みする。いや、お前そんな喧嘩強かったのォ?何やらかしてたんだヨ、中学の頃。

「お前な、女なんだからもうちょっと大人しくしとけヨ」
「どーせオトコオンナですし」
「でも女だろォ、俺の」

はた。と苗字の顔がこわばった。と思ったら耳まで真っ赤になってやんの。

「ハッ、言わせんなヨ!バァカ!」
「うううるさい!アンタが勝手に言ったんでしょ!」

そんだけ怒鳴る元気がありゃ問題無ェな。んじゃそろそろ戻るわ、と言って背中を向けると制服の裾を掴まれた。

「…なんだヨ」
「もうちょっと…」
「あ?」
「もうちょっとここにいて!」

余程恥ずかしいのか今にも沸騰しそうな顔してやがる。…何だよそれ、反則じゃナァイの。仕方ねーからそこらへんにあった丸椅子を持ってきてそばに座った。ありがとう、とか言うなよ恥ずかしいからァ。


'140307 pike


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