静けさがどことなく寂しく思わせる夜中の河川敷。横に目を向ければ、星を眺めている神童。それに対して、俺は一体何をしているんだろうか、と自分に問い掛けてみるが、答えはこない。只、惹かれるように河川敷に来てみたら、ぼんやり星を眺めていた神童が居て、隣に座ってみた。それだけのこと。理由はない、行きたいと強く思って来ただけだった。
神童は、何故、居るのか。俺と同じく行きたいと思っただけなのか、分からない。そりゃ当たり前だ、隣に座ってからも神童は星を眺めるだけで何も話そうとはしないから。だから、俺も一言も喋ってはいない。


(あ、れ…?)


夜は暗く真っ暗だ。神童の表情が良く見えないが、微かに目尻から落ちる滴が目に入った。嗚呼、泣いてるな、と神童の頭にポン、と手を乗せる。俺なりの慰め、というもの。


「霧野、俺、流れ星が見たかったんだ」

「流れ星…?」


すれば、神童は初めて口を開き喋り始めた。どうやら神童には理由があって河川敷に来たらしい。話しは止むことなく続く。「もし、願いが叶うなら、誰も居ない俺と霧野だけの世界を望もうと思ってな」、と無理して笑う。その笑顔は、叶わない事を本当は知っていた様に見えた。俺は返す言葉に悩み、口ごもった。何を言えば良いのか分からず、取り敢えず、神童が溢す涙を手で掬った。


「愛してる、」

「俺も愛してる、けどさ…」


二人だけの世界を望むなんて、どこまで神童は俺を愛しているのか、疑問に思う。少し前に先輩に聞いた時は、俺が思っている以上に、とは言われた。だが、俺も神童が好きで、愛している訳で。素直に言えば嬉しかった。
神童は、正に真剣そのもので、涙を掬った手を強く握る。


「俺と霧野だけの世界、着いてきてくれるか?」


その言葉に迷いなんて消え去って、悦んで、と繋いだ手を握りかえした。


二人の世界へ逃げようか





企画サイト様『君とキスする五秒前』より、提出。