何時からなのだろう、この感情に酷く、苦しくなったのは。もう昔の事のように、思えるが、確かつい最近の事である。
真夏の蒸し暑さで汗ばんだユニフォームを脱ぎ捨て、ぼんやりと考えていた。嗚呼、どうやら頭までやられてしまったようだ。


「おい、神童、早く着替えないと先行くからな」


その様子をジーッ、と見つめている相手、霧野に名前を呼ばれ、自然と顔が染まり言葉が出ない。ぎこちなく「悪い」、と言葉を発し学ランに着替えた。
幼なじみだけあって、何時もと違うと感ずかれたのはそう遅くはなかったが何も触れようとはしない。分からないんだ霧野には、俺がこうなってしまった理由など。もし分かったとしても言葉は来ないと知っていた。

――だって俺は霧野に恋をしてる。


「ん、良し…帰るか」

「帰りにさ、アイス買って行こうぜ、勿論神童の奢り!」

「分かった、お前が言うなら仕方ないな」


ぴょこぴょこと跳ねる桃色の二つ結びの髪。ふわん、と嬉しそうに笑う顔。全てが愛らしく、好きで堪らない。
アイス一つで喜んでくれるなら、御安いものだと笑顔が溢れた。それとは裏腹に心拍数は半端ないぐらい激しい。やっぱり恋なんだな、と改めて感じた。


「霧野、」


名前を呼んだ。「ん?」、と首を傾げ此方に振り向く。その瞬間がスローモーションに見えて、鼓動が激しく跳ねていることに嫌でも気付いた。
もしも、霧野が女性で、ましてや幼なじみでも無かったら好きだと伝えたんだろうが、霧野は男性でずっと一緒に居た幼なじみなのは変わらない。


「き、りの…」

「だから、何だよ神童」


その関係は無くなる訳もなく、この恋が叶うなんて奇跡と呼ぶしかなかった。
ただ、今は君の名前を呼んだ。


きみの名前に鼓動は跳ねて
(名前を呼ぶ度、この恋は増し、苦しくなる。)






■企画サイト様『横恋慕』より参加させていただきました。