/ 02


香織がその晩はビジネスホテルに泊まると言うので、それなら家へ泊まればいいと臨也はマンションへ迎え入れることにして、タクシーに乗って某所まで向かった。
割り勘にしたいと粘る香織を適当にあしらって、臨也はエントランスをくぐった。
落ち着きなく辺りを見回していた香織はようやく我に帰ったといった顔で、ルームナンバーを打ち込む臨也の背中を見る。


「ねえ、こんな大きいマンションで一人暮らしなの?」
「そうだよ」
「……すごいね」


香織は、これまでに自分が住んできたアパートの何倍の広さだろうと考えていた。


「家賃、高いでしょ」
「まあ、香織が前に住んでたアパートと比べると相当違うんだろうけど……第一香織は…」
「「お金があっても、こういうところに住もうとは思わないよ」」

知ってる、と言いたげに臨也は目をつむってエレベーターのボタンを押した。
からかわれたと香織が気が付いた時には話は終わってしまっていた。ぐん、とつまさきから胸のあたりへ、浮遊感が襲ってくる。
手持ち無沙汰な香織は半歩少し後ろにさがって、少しだけ高いところにある横顔を見上げた。

顔付きは前よりも大人びたかもしれないけれど、自然に見せた風な清潔感ある黒髪や、手入れしてるみたいにきれいな肌、ポケットに両手を入れる癖、姿はまるで高校の頃と変わっていない。

五年もあれば髪色を変えたり服装の好みが変わったりすることはおかしくないとは思うけれど、臨也は違った。男性と女性とでは違うのかもしれない。
ましてや臨也みたく、元々こだわりの強い人は尚更。

「なに、見とれてるの?」
「え?」

気が付くとにやりとした臨也の顔がこちらを覗きこんでいて、香織はあわてて否定する。

「臨也って、自意識過剰!」
「ははっ。香織って本当、予想通りの反応をしてくれるよね」
「もうっ、憎たらしいんだから」
「なんとでも」


間があったあと、顔を見合わせて、くすくすと笑い合う。ゆっくりと時間をかけて、エレベーターは上昇してゆく。



- 3 -

[*前] | [次#]

×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -