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エピローグ

八月十日 新宿のマンション



『明日、そっちに戻る。東京には夕方着きそう』


臨也の携帯電話にそのメールが入ったのは、昨日の昼だった。

見知らぬアドレスから届いたためチェックを後回しにしていて、確認したのは受け取ってからしばらくたったあとだっだ。


ーーーそうか、帰ってくるのか。


文面を見たとき、臨也はそう思ったが、こうしてメールを見返していると、じわじわと実感がわきあがってくる。
香織が帰ってくる。


ーーーそれにしてもなぁんで俺のケータイアドレスを知ってたのかな?
同じ高校出身の闇医者、新羅かそいつと同居人の運び屋に聞いたのかもしくは…。


アドレスの入手ルートがどうあれ、旧い友人が帰国するという知らせを、臨也はよろこんだ。


ーーーま、彼女がいた頃と今じゃ池袋も変わったからねえ……気を落とさなきゃいいけど。


あらためて、右手で携帯を操作してメールの履歴を眺める。


『了解。夜は会えるかな』

『構わない。どこで待ち合わせ?』


「まったく……今も昔もメールは最小限か」

あきれた風に言いながら、臨也の目は僅かに笑っていた。


『新宿、適当に駅から出て人が少ない所を歩いてて』

『楽しみにしてる。じゃあ』



「ん〜……」


携帯をパタリと閉じ、近くの棚から玩具のダーツの矢を手に取る。そしてデスク付近に貼ってある適当なメモを狙ってーーー放つ。


「楽しくなりそうだ」


東京の街を見下ろしてやわらかい笑みを浮かべた、その彼の呟きは、誰にも聞かれることなく光の中へ融けた。


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