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格好いいなあ
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消えちゃいたい。
はちみつみたいなとろとろした目に見つめられるたびにわたしは心のなかで思った──格好いいなあ、って。
灼はいつもやさしいよ。仕事終わりでも、誘うとかならず来てくれるから。会って、お店には入らずに、少しだけベンチで話す時間がとても好きだ。至って健全な23時から2時を過ごして、そうしてから彼は、わたしの家まで送ってくれる。それから数時間後には互いに出勤をする。
でもそういう事が、当たり前になっていくのが少し怖くもあった。何も起こりそうもない関係になってしまって行きそうで……
俺たち、ただの同級生だよなって言われているみたいで。
夜なのに缶コーヒーを傾けながら、灼が今日あった事を話している。可笑しいくらいに仕事の話は殆どなくて、あそこの通りに新しくケーキ屋ができていたとか、わたしの爪に触れながらネイルサロンってどれくらいの価格なの? とか質問をしてくる。
そんなこと、なんで聞くんだろう。
灼の熱がすぐ近くにあるだけで、わたしは泣きそうなくらい恥ずかしい。
そんな感情を抱いているのも、わたしだけだ。
わたしはテレビに公安局が映るだけで毎日すごく胸が痛いよ。
「……どうして良いか分からない」
「なにが?」
「これからについて」
不満を分からないようにぶつけたら彼の目付きが変わる。あ、その目もやっぱり……。
や、負けないんだから。
それでも視線は自然と灼の顔を見つめてしまう。
「仕事の悩みなら聞くけど?」
「違うなぁ」
「じゃあ何、家族とか?」
「うーん」
「……レンアイか」
灼は決めつけるように言って、ベンチを立った。
腰の辺りが目の前に来て、離れた距離に少し怖くなる。
咄嗟にうそをつく。
「ちがうもん」
「違うかどうかなんて、俺にはすぐわかるよ」
「な、なんで?」
「何でって………大事な友だちだから」
ちく、と胸の奥深くが痛むのを無視して灼の前に立つ。さほどかわらない目線の先で、眉を下げているのが不思議だった。そういう顔をしたいのはわたしなのに。
「あのさ、ひとつ確認するよ」
馴染みになった川沿いに、5月の夜の冷たい風が吹く。
耳のところがじんと冷えた。耐えきれなくて目を伏せると影が動いた。灼の脚も、灼の指も男の人で、すごく安心して、すごく好き。
「俺がいつもどうでもいいことたくさん話すのはどうして?」
「それは……、気を遣ってくれて…」
「ちがうよ」
顔をあげたら灼の頭がすぐ近くにあった。一歩引くと、彼はあごを引いた。
「緊張してるから」
照れたみたいな顔しないで……ばかみたいに自惚れるから。消えたくなるよ。
「今度、俺もいこうかな」
「えっ? ネイルサロンに?」
「ううん……君んち」
「それは、家に上がるってこと?」
「うん、そう。ダメ?」
だめ…な訳がないのに
何も言ってないのに嬉しそうな顔をする。
「ん、でもお家に行くのは昼間のデートの時にしようね」
「デ…………!?」
「あ、違った?」
「ち、ちがくない」
「そっかあ。よかった」
灼はいつもやさしいよ。でもそのやさしさはいつも他の人にも同じだけ向いてると思ってる。
そんな灼が意地悪するっていうのは、みんなよりも少しだけ親しい仲だって、そんな風に思っても良いかな。
たとえ思わせ振りだとしても、まだ今はふたりでいる時間が楽しいって感じられるから。
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意味わかんないよって思われるかもしれないんですが、灼の考えることとか話すこととか理解が出来すぎて、彼がこわくなる時があります(20200519-202208XX)
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