真夜中に


 時刻は真夜中。ほどよい温度を保った風が空調から吹き込んでくる。シーツも巻かずその冷たさを直に背中に感じていた。ベッドは槙島さんに占領されてしまい、ただ眺めていることくらいしかやることがないのだ。
 突然やってきては何も言わずに眠ってしまう。日の出ているうちに会ったのはいつが最後だろう。

 肘をついて、寝顔を見下ろす。
 薄い唇を鼻でなぞり白銀の髪に五本の指を差し込んでみれば、揺れるランプに透き通り暗闇で光が増した。閉じられた目蓋にはくちずけを。すべすべの頬は、やわく食んでみる。

 静かに眠る槙島さんは、どこもかしこも美しい。すべて忘れるほど。


「ん」


 低くて、掠れた声が耳元に。
 もっと聞きたくて喉をなぞっていると、彼の指に捕まった。


「何してるんだい」
「なにも」


 言いながら、冷たい手のひらに唇を押し当てると、揺らめかせた瞳を細めた。唇はゆるやかに弧を描く。


「まだ、真夜中だから。眠っていていいんですよ」
「こんなことをされて、眠っていられるとでも?」


 くすくす。
 声には出さず、内心そのように笑っていると、読まれてしまう。ぐっとシワのよった眉間に唇を触れさせる。


「跡になったらどうするつもりですか」
「そうでもなったら、君のせいにするさ」


 絶対に、するはずなんてないのにね。
 槙島さんは、他人に感情を押し付けない。ただ、ひとの感情をうまく導いているだけだ。

 背筋を伸ばして彼を見下ろせば、金色の瞳が僅かに揺れた。

「ねえ、もうひと頑張りしない?」
「構わないが、起きれるかな。寝坊をしたら、大切な約束に遅れてしまう」
「そうしたら、わたしのせいにすればいいんでしょ?」


 手のひらを肩に滑らせれば、槙島さんは観念したかのよう、両目を閉じて、すこし笑ってから言った。


「いや、共犯だ」



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マキシマムの瞳に飲み込まれたい。
(20150814〜20151111)
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