*願い


 料理をするとき。人に食べさせるさせないでは、手際の良さが違うこと。一人きりのときは、洗い物を後回しにしてしまうことがあるらしいこと。


 人と向き合うとき、潜在犯と向き合うとき。なにを思ってるのか。なにも思っていないのか? わたしが知らない秀星の、底に潜む深淵の中。


 キスをするときは、目の奥が笑ってる。どんなにクールに決めようとしても、そこだけはまだ初々しくて、変われない。互いに。
とくべつルールのない触れあいは気楽で、心臓がぎゅうと締め付けられる切なさと一緒に、幸せに満ち溢れてる。これらはすべて、秀星がわたしに教えてくれたこと。


 とくに好きなところは、笑顔とはうらはらに、案外くじけやすい。自分のミスを、決して忘れない。
 励ましがいがあっていい。ずっとそばにいてやれる。まあ、単にわたしがいたいだけだが。

 反対に、報告書ははじめからあきらめて潔く忘れているところも好き。宜野座さんには悪いけど。




 眠りが浅いのも、変わらず。
 室内で跳ね返る音とライトが寝静まった深夜三時頃。
 今夜も適当に、暗闇の中、好きなところで眠った。


 寝袋を足で蹴ってしまってる秀星のやわらかい髪が乱れて、薄いまぶたにかかっていた。近付いて、人差し指でどけてやって、あらわになったおでこを見つめた。同じ年頃なのに、こんなに肌質がちがくて、わたしは女なのにと自信を損失。

しゅうせい、と名前を呼んでみれば、少しだけ目が開く。しまった、と思った。本当に起こす気はなかったのに。

「起こした、ごめん」
「うん?」
「ごめん」
「ふふ。……あ、それ。みじん切りだよ」
「……おやすみ。秀星」


心配せずとも、彼はすぐ眠りの世界へ帰ってゆくのを知ってる。
 一昨日は“イヤな夢”、昨日はプール、今日は、きっと料理の夢。
きっとそこでも、わたしがそばに居られますようにと。

 彼の無防備な寝顔に笑ってから、ただ、願う。




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部屋のなかにベッドはあるのだけど、二人でいるときには使わない。誠実さ?弱さ?
そう簡単にはからだの関係にはなれないひとだと勝手に思います。そうであれ…との理想でもある。@拍手お礼(?~20150724)
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