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05.間接キス



月島君と約束したのは駅前に10時。いつもと変わらないデートだけど今日はちょっとだけ違う。月島君の家に行くし、それに私からキスもする。緊張があるのだ。昨日、選んだスカートをぎゅっと握って待つ。というか今9時30分だから暫くは月島君来ないよね。心の準備をしなければ。まずは深呼吸だ。落ち着け、落ち着け。下を向いて深呼吸して、精神統一。そんなことしていると前から笑い声が聞こえてきた。それも聞きなれた人を馬鹿にしたような感じの。私が顔をあげるとそこには月島君が笑いながら立っていた。
「周りから見たらすごい不審人物だよ?」
私の深呼吸のことを言っているのだろうか。どっちにしろ深呼吸を見られて、いきなり声をかけられて……
「そ、そそそ、んなことありませんよ!」
予想外に焦りながら私は言葉を発した。緊張しすぎだと心の中で一人つっこみをいれる。
月島君はまた馬鹿にしたように笑った。その笑顔さえも好きな私ってどんだけ月島君のこと好きなんだろう。私は馬鹿にしてきたことに対して反論をしようにもそんなこと思っちゃったら反論の言葉は出てこなかったし、それに緊張しすぎて口内が渇いて声が上手く出ない。
口をぱくぱくさせる私を見て月島君はペットボトルを差し出してきた。
「何?喉渇いたの?」
いや、違うけど……緊張してるんだよ。なんて言ったらまた馬鹿にされそうなので適当に頷いてペットボトルを受け取る。
蓋はまだ開いておらず開けると小気味の良い音を立てた。新品を私が飲んでも良いものだろうかと少し躊躇したが渡されたものだし良いかと思い、飲み始める。
何口か飲んで、口内を潤すと蓋を閉めて彼に返す。
「ありがとう」
「どういたしまして」
月島君はそれを受け取るとせっかく閉めた蓋をまた開ける。そして私と同じように飲み始める。月島君も喉渇いていたのかなんて思いながらそのようすを眺める。そういえば、これって間接キスだよね……。間接キス……普通のキスは駄目なのに。けど私が口を付けたときは未開封だったから私は間接キスしてない。月島君だけ。間接キスで良いから、私もしたいな。
私はじっと彼を見る。するとその視線に気付いたのか「まだ飲み足りないの?」と聞いてくる。
「もう、一口……お願いします」
喉も口内も完全に潤っているけれど、下心で私は頭をさげる。下心がばれませんように。ばれたら恥ずかしすぎる。どきどきと鼓動が速まる。
「いいよ」
月島君は素っ気無くそう答えると私にペットボトルを差し出す。
「本当に?!」
ばれなくて良かったと思いながら私は彼からペットボトルを受け取ろうとする。多分、今すごく笑顔になっているだろうな。
しかし月島君は無表情のまま、私がペットボトルを取ろうとすると手を動かして取れないようにする。そして私はずっとペットボトルを追いかける。
不審に思って私は彼の顔を見ると、彼はにやにやと笑っていた。
「君って本当、欲望に忠実だよね」
そしてペットボトルを鞄の中に戻すと「下心丸見えな人にあげるわけないでしょ」と言う。
「ペットボトルを必死に追いかけるの可愛かったよ」
そう言って笑う月島君はとても楽しそうだった。



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