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04.デート前日



「うぅっ……服、どうしよー」
家行くってことは月島君の家族に会うかもしれない。もちろん月島君とのデートだから気合はいれるけど、いつも以上に気合をいれなければならないのだ。
月島君のお母さんに会ったことは無い。けど絶対、厳しそう。だって月島君があんなに厳しいんだから。まあ、甘いときは本当甘くて優しくて。大好きなのだけれど。
そんなこと考えていると服を選ぶ手が止まっていた。今はとりあえず服を考えなければ。明日がもうすぐなんだから。時計を見ると午後9時と表示されていた。
「まだまだ、大丈夫」

そんな余裕をかましていたのはいつだっけ。気付くとあれから1時間が経っていた。私は早く寝る派なのでいつもならお布団に入る時間だ。それなのに全然、決まらない。スカートで行ったほうが良いのか。いや、スカートって見えるよね。長いのだったら良いのかな。
「うー」
スマホを取り出して、月島君に「服決まんない」と送る。すると電話がかかってきた。月島君から。
「決まんなーい、眠いー」
「君、いつもは服決まんないとか言わないのにどうしたの」
電話の向こうの月島君から心配しているのか馬鹿にしているのかよくわからない声で言われる。
「だって月島君の家に行くんだよ?ご家族の方に会うかもしれないじゃん?ならいつもより頑張らないと」
段々飽きてきた私は電話を耳につけながらクローゼットから離れてベッドへと仰向けになる。
「もう眠いよー」
私がそう言うと一瞬、月島君が黙る。そして呆れたように言う。
「……明日、家族いないけど」
「……はい?」
「だからいないって」
この気持ち、どう表せばいいのだろう。学校に行ったら学校が休みだったみたいな、今日提出だと思っていた宿題が明日だったみたいな絶望感とは言わないけど何とも言えないそれに近いような感じ。上手く現状が飲み込めなくて無言になる。
「苗字?聞いてる?」
「え、ああ、はい」
私の今までの時間は何だったの。ベッドにどんどん沈んでいきそうな感じがする。
「っていうか家族がいたら君が家に来たいっていうの断るから」
「そ、うですか」
家族がいないってわかって安心したけど今までの私の頑張りはなんなんだ。それだけしか考えられない。明日デートだっていうのに一気に気分が沈んでいく。
「どうしたの、苗字。急に元気無くなっちゃって」
「私、頑張ってたのに」
月島君は全く悪くないけどつい愚痴ってしまう。何してんだろ、私。すると月島君が電話口の向こうから「お疲れ様」と言う。
「頑張ったね」
まるで小さい子をあやすような言い方。そんな言い方なのに何故か嬉しい私がいた。眠いと何でも嬉しいのだろうか。それとも月島君だからかななんて思う。そして自然と私は嬉しくなってにやけ始める。一人でにやけて恥ずかしい。枕に顔を埋める。
「ありがとう……」
埋めたまま言うとくぐもった声が出る。
「どういたしまして。早く寝なよ」
「うぅ、はい……」
私はそう言うと布団から立ち上がり、散乱した服を片付けにかかる。
「じゃあ、明日。今から私は散らかした服の片付けしないとだから暫くは起きてるよー。おやすみ」
「おやすみ。ちゃんと早く寝なよ?」
「はーい」
「僕だって明日楽しみにしてるんだから君が寝坊でもしたら困るし。じゃあおやすみ」
月島君にそう言われ固まる。楽しみにしてる、って聞こえた。不意打ちに固まるしかなくて本当にその言葉を言ったのかすらわからなくなってくる。固まっているうちにスマホからは電話の切れた音だけしかしなくなっている。
「本当、月島君って……かっこいいなあ」
やばい、またにやけてきた。無心だ無心。自分に言い聞かせて服を片付けにかかる。
しかし散々に散らかした服は中々片付かないもので。それに元々私は片付けが得意なわけでは無いのだ。
「月島君だって、早く寝なって言ってたよね……」
そう呟き部屋の隅に服を押しやる。ぱっと見た感じでは綺麗だ。中央だけ見ていれば。絶対、明日片付けよう。
「よし、おやすみ」
そのままベッドに身体を沈める。明日、楽しみ。月島君も楽しみにしてるならもっと楽しみ。いつも乗り気じゃなさそうに見えてたのに。また頬が緩んでしまった。ああ、寝れない。



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