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03.作戦



昨日、キスしてあげるなんて言ったくせにキスする勇気が出ない。今日もキスをしてくれなかったあの日と同じように放課後、廊下の端で月島君と話す。特に用事は無いけどこうやってたまに話す時間が好きなのだ。
「月島君、今度の日曜ってあいてる?」
「あいてる」
「じゃあ久しぶりにデートしよ」
デートはいつも私から誘う。誘うと月島君は大体嫌な顔をする。けど絶対、断らない。
「デート好きだね」
「だって月島君と一日中過ごせるなんて滅多に無いし」
「……そう」
月島君は素っ気無いけど少し照れたようにしてそっぽを向く。仕草が可愛い。
「どこ行くの?」
「お家デート!」
「却下」
私が言った後、月島君は間髪いれずにそう言った。
「え、駄目?」
「駄目に決まってるでしょ。それに君と一日中家で過ごすなんて飽きるに決まってるし」
「えー……じゃあ午後だけでも!」
断られたら私のプランが台無しだ。私は月島君に自分からキスできないからお家でちょっと積極的になって我慢できなくなった月島君に思いきりキスしてもらおうと思ったんだけど。外だと恥ずかしいからお家デートにしようと思ったのに。私は必死で家でデートをしようと頼む。
「お願い!」
私がまた頼むと月島君は少し考えてから口を開く。
「じゃあキスしてくれたら良いよ」
「えっ」
月島君は余裕そうな笑みを浮かべてそんなことを言う。いやいや、このデートでキスするつもりなんですけど。驚いて固まる私を見て月島君は笑う。
「デートのときにキス、するから、お願いします!」
頼み方が彼女の頼み方じゃないでしょ、なんて心中で一人つっこみをいれる。それでもキスはしたい。だって月島君とのキス大好きだし。私の必死な頼みに呆れたのか、折れてくれたのか月島君は溜息をつく。
「良いよ、僕が断り続けてもお願いしてきそうだし」
「やったー!」
溜息を連発している月島君とは反対に私は喜ぶ。どうせなら午前中にも一緒にどっかで遊びたい。
「午前中もどっか行こうよ」
だからこうやって誘うと月島君は盛大に溜息をつく。
「一日中、君といるって……」
言葉ではそう言うが、やはり断らず「どこ行きたいの?」と私のことを聞こうとしてくれる。やっぱり優しい。自分で思うのもちょっとアレなのだが愛されてるな、なんて思う。
「月島君と一緒に行けるならどこでも良いよ!あ、今回は月島君決めてよ」
いつもは月島君が私の行きたいところについてきているだけだ。だから月島君もたまには行きたいところを言ってほしい。月島君の行きたいところはすごく気になる。好きな人の好きなものが気になるみたいなもの。月島君の行きたいところってあまり想像がつかない。いつも私の行きたいと言った場所に連れていってくれる月島君は自分からは言わなかった。月島君は私が聞いたからか少し驚いたようだ。
「良いの?」
「月島君が行きたい場所なら私も行きたい」
月島君は合わせていた目を僅かに上方へとずらす。少し嬉しそう、な気がする。月島君は少し考えてからスマホを取り出すと何かしている。そしてスマホの画面を私に見せる。
「これって……」
「ここ行きたい」
スマホの画面にはスイーツパラダイス、所謂スイパラのトップページが表示されていた。つい私はその画面と月島君の顔を見比べる。
「え、本当?」
「悪い……?」
少し恥ずかしそうに言って私をじっと見る。意外に可愛いところに行きたいなんて。
「甘いもの好きだから」
「へー……」
見つけた新しい一面。顔がにやけそう。
「じゃあそこ行こっか!」
「うん」
月島君は顔には表さないけど嬉しそうに頷く。
次の日曜日が楽しみでたまらない。



しおり
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テーマ「人外ファンタジー」
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