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02.欲に塗れる



月島君にキスされてよなんて言われてから二日が経つ。キスをしない以外には特に私達の関係に変わりはなかった。
「月島君、キスしてよ」
私は昼休み、そう月島君に言う。月島君は表情を変えずに口を開く。
「君がしてくれたらね」
相変わらず月島君はキスを強請ってもしてくれない。
「はーい、いつかしますよー」
多分これは耐久線。きっと私がずっとキスしなかったら月島君からしてくれる……はずだ。だからずっと私は待つ。キスしたいけど待つ。
「……苗字さ、僕がいつかしてくれるって思ってるでしょ」
「へ?そ、そんなことないよ!絶対するから、ね?」
私が焦ったように言うと月島君は軽く息をこぼして笑う。
「苗字ってわかりやすいよね。それとそんなこと思ってる君に一つ忠告」
「うぅ、はい……」
「僕は君みたいに欲望に塗れて、それに支配されたりはしない」
月島君は私の額に人差し指を当ててぐりぐりと押す。あ、地味に痛い。
「っていうか、それって私が欲に塗れてる、その、変態みたいじゃない」
私が人差し指から逃れるように頭を後ろに下げると月島君はそれを追いかけるようにして人差し指をつけてくる。そして笑うと「そうだね」と頷く。
「そうだねじゃないよ!私、そんな欲に塗れてない!」
そうだねって月島君、私のこと変態だって思ってるってことだろうか。彼女を変態と思っているなんて酷い。私が反論すると、意地悪げに笑って口を開く。
「だって君っていっつも抱きしめてとかキスしたいとか遠慮無く言ってくるじゃん」
それってさ、と言うと口端を月島君は歪める。
「言わなくてもわかるよね?」
「……違うし」
欲望にまみれてるわけじゃない。ただ月島君が好きなだけだ。だからたくさん触れたいし、確かめたい。けどこれって月島君を求めてるっていうある意味、欲望。駄目だ、恥ずかしい。
「違うなら顔あげれば?」
「いじわる……」
言わなくてもわかっているのは月島君じゃない。こんな赤くなって。認めているようなものだ。
「絶対、月島君が私にキスしたいって言うくらいのキスしてやるからね!」
それで月島君に「欲望にまみれてる」とか言ってやる。
「まあ、そもそも君が僕にキスできるかすら定かでは無いんだけどね」
月島君は私の言葉をさらっとかわして笑う。正論過ぎて言い返せない。
「もう、うるさいよ!」
私が耳に手を当てて月島君の言うことなんか聞かないよという意思表示をすると月島君は呟く。
「けど僕も何だかんだで苗字からのキス待ってるから同じかもね」
「え、ほ、本当?」
私はその言葉に驚いて手を耳から離す。月島君も期待してくれてるんじゃない。私のこと本当は大好きなくせに。こうなったら期待に応えてあげないと。
「よし、期待しててね!月島君がお望みのキスをしてあげるから」
私が笑ってそう言うと、月島君は溜息をつく。
「君って本当、単純」
そう言った月島君は言葉とはそぐわないで顔を赤くさせていた。



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