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01.キスしてよ



私の自慢の彼氏、月島君はとても優しい。私が望むことは無理のない範囲でやってくれる。勉強教えてと言えば教えてくれる。抱き締めてと言えば恥ずかしそうにしながらも抱き締めてくれる。キスもしてくれる。キスは強請らなくても月島君がキスを好きなようでよくしてくれる。私も月島君とのキスは好きだ。優しいし。それなのに……。
「僕、これからキスしない」
それは昨日の出来事。放課後、人が通らない廊下の端でキスをした後に言われた。
「え?」
急にそんなことを言われた。口が臭かったのか、嫌われたのか、他の子が好きになったのか。それにしてもキス限定ってなんだろう。
「えっと、どうしたの?ごめんなさい」
とりあえず謝ろう。そう思い謝る。すると月島君が怪訝そうな表情をする。
「いや、別に苗字悪いことしてないけど」
「え、じゃあ何で」
特に理由が思い当たらず私は脳をフル回転させて考える。しかし思いつかない。
「わかんないよ、月島君」
「わかんないだろうね。うん」
「理由教えて」
「教えてほしい?」
私は首をぶんぶんと縦に振る。だっていきなり理由も無しにキスなんて嫌だし。そんな私を見て月島君は笑う。そして意地悪げな笑みを浮かべると楽しそうにこう言った。
「教えない」
「え?」
「だから、教えない」
月島君は私を見下してそう冷たく言う。私は月島君の服を掴んで駄々をこねるようにしてお願いする。
「教えてよー」
すると月島君は呆れたような視線を私に向けてこう言った。
「キス、君からしてくれたら教えてあげてもいい」
そう言われた瞬間、私は固まる。
「へ?」
「聞こえなかった?」
「いや、いや、いや」
いや、聞こえてますけど。私からキスなんて無理だ。身長差ありすぎるし、それに恥ずかしくてできない。月島君からしてくれるキスはとても嬉しく、幸せなものであるが自分からするのとはわけが違う。私は月島君からしてくれるからこそ好きなんだ。多分、自分じゃあの気持ちは味わえない。
「良いでしょ?」
「え、う」
意地悪そうに笑う月島君。私はどうすれば良いかわからない。頷くのも嫌だし、けど断ることもできないし。
「じゃあ楽しみにしてるよ。苗字から」
私が反撃する間もなく、月島君は一人で結論を付ける。もう完全に断れない。
「……はい」
私が頷くと月島君は頭を撫でる。大きくて優しい手。これだけで嬉しい。少しにやけてしまう。
「何、笑ってんの」
「キスしてくれないから悲しかったけど、少し嬉しいなーって」
「苗字って単純だよね」
月島君は馬鹿にしたように言うとまた頭を撫でる。なんだかんだで優しい。
「ちゃんと、キスしてよ?」
そう言って月島君は部活へと向かう。やっぱり嬉しい。キス、恥ずかしいけど少しは頑張ってみますか。



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