国見英の場合

「あれ国見君、顔赤い?熱あるんじゃない」
廊下で金田一と歩いていたら彼女の苗字さんとすれちがう。挨拶すると腕をつかまれてそんなことを言われた。
「そうですか?」
確かに今日はいつもよりだるかった。ふらふらするときもあったが多分いつもの寝不足だと片付けていた。熱があるなんて思わなかった。顔が赤くなったりしているような感じは無かったから。
「金田一、俺顔赤いか?」
「言われてみれば。あんまり……あ、別に苗字先輩のこと否定するわけじゃ……!」
金田一はすると謝りだす。苗字さんは困ったように笑った。金田一、苗字さんのこと困らせたからあとでちょっかい出してやろう。
「大丈夫だよ、金田一君。あと国見君、今から保健室行くよ」
「え?俺ら次移動教室だから急いでるんですけど」
苗字さんは俺の腕を無理矢理掴んで保健室へ連れていこうとする。俺がそれに抵抗するとぶすーっとした顔をする。
「熱ある状態で授業受けても意味無いから早く保健室行くよ?」
「え、嫌なんですけど」
保健室が嫌いなわけではない。ただ面倒だ。保健室行くのが面倒。あとから授業で取れなかったノートを取るのも面倒。色々と休むのは面倒なことがついてくる。だから俺が嫌がるのだが苗字さんはどうしても保健室へ行かせたそうだ。
「別に熱無いですから」
「……絶対、あるよ」
上目遣いでじっと俺を見つめる苗字さん。意地でも保健室へ行かせるらしい。頑固だ。多分、行くまで見逃してくれないんだろう。
「じゃあ、行きますよ」
「よし、行こう!じゃあ金田一君、国見君のこと先生に言っといてね、よろしく」
「あ、はい」
苗字さんは金田一に手を振ると俺の腕を掴んで保健室へと行く。金田一がちょっと嬉しそうにしていたのが気に食わない。ちょっかい増やしてやろう。そんなこと考えて腕を引っ張られながら保健室へと向かう。苗字さんは不安そうな顔をしていた。
「苗字さん、そんな心配そうにしなくて良いですよ。どうせちょっとした風邪ですよ」
俺がそう言うと苗字さんは俺のほうを首をぐるっと回して見てくる。首を回すのが速くて驚いた。
「好きな人が具合悪かったら心配でしょうが!」
苗字さんは怒ったようにそう言った。眉間に皺を寄せるのがどことない可愛らしさを感じる。そして苗字さんが言った言葉に対しても愛おしく思えた。
「国見君はもっと自分のこと大切にするべきだよ」
「……苗字さんって、優しいですよね」
思ったことを口にすると「え?そ、そんなこと」なんて恥ずかしがる。面白い。苗字さんは恥ずかしかったのか顔をまた前に向けて歩き始める。赤くなった耳と頬が見える。
苗字さんは俺の腕を掴んだまま歩く。周りからじろじろ見られるのが恥ずかしい。しかし苗字さんは周りが見えていないのか気にせず歩く。そうして俺達は保健室についた。
「そういえば苗字さん、授業いいんですか?」
先生がいない保健室で苗字さんは体温計を取り出すと俺に渡してきた。俺はそれを受け取り脇に挟む。ちょっと挟みにくかったのでボタンをいくつか外して挟んだ。そして体温計が勝手に熱を測ってくれる間、俺は気になっていたことを聞いた。そのとき丁度、授業開始の鐘が聞こえた。
「大丈夫だよー、保健委員だし!それに私これでも成績いいんだからね!」
ちょっと自慢げに笑う苗字さん。そして少し恥ずかしそうに笑いながらまた口を開く。
「それに、国見君とこうやって二人でいれるの嬉しいから」
なんだ、それ。嬉しい。にやけそうになる表情筋を頑張っておさえる。しかしそれでも頬は熱くなってしまった。
「あ、国見君。さっきより顔、赤い」
わざとなのか、俺の熱があがったと本当に思っているのか苗字さんはそう言ってきた。その顔が意地悪そうに笑うから多分、照れているのがばれているのだろう。
「うるさい、です」
俺が目を逸らすと「可愛いなー」と言ってきた。それとともに、体温計がピピッと音を鳴らす。熱が測れたようだ。俺は体温計を取り出す。するとそれを見ていた苗字さんがやけに俺の首元あたりを見る。
「なんですか?」
「いやぁ……変態とか思わないで聞いてね?国見君、ボタン外してるからさ鎖骨が……」
眩しい、なんて言い出した苗字さんを軽蔑した目で見ておく。彼女から自分の身体に対してそうやって言われるのは嬉しいがこのタイミングか、と溜息をつく。そして体温計の表示を見る。
「どうだったー?」
「37.5でした。高熱では無いですけど、いつもよりはあります」
「やっぱり、熱あるねー。少し寝てけば?」
ここまで来たなら寝ていきたいと思い俺はそれに頷いた。苗字さんは手際よく、俺が寝るために休むための届けを書く。保健委員ってこんなのも書くんだななんて思った。
それにしても苗字さんはよく俺に熱があるなんてわかったな。本人でさえわからなかったし、金田一だってわかってなかったのに。廊下でたまたますれ違って顔赤いってわかって。
「……苗字さんって俺の顔、よく見てますよね」
「へ、な、なんで?」
「いや、廊下ですれ違っただけなのに顔赤いってわかったとか……」
俺がそう言うと苗字さんは顔を赤くして俯いてしまった。
「たまたまだよ……別に国見君の顔そんな見てないし」
「けど、そんなわからないんじゃないですか。見てないと、本人すらわからなかったんですから」
赤くなりながら言う苗字さんが可愛くて意地悪をしたくなってそう言うと余計に顔を赤くされた。そして「もう、うるさいよ」と可愛く睨まれながら言われてしまった。そんなやり取りをする間に苗字さんは届けを書き終わったようだ。
「はい、これ。あとで先生に提出すれば大丈夫だよ」
「ありがとうございます」
顔を赤くしたまま届けを渡す苗字さんをじっと見つめれば目を逸らされてしまった。可愛い。
「も、もう私、授業行くからね!」
苗字さんはさっき俺に言われてしまったのが図星をつかれたようで相当恥ずかしかったらしく早く帰ろうとする。
「あ、待ってください」
「ん?何?」
ドアに向かう苗字さんを呼びとめ肩を掴んで、振り返らせる。驚いて目を大きく開いた苗字さんが可愛かった。
そしてそのままキスをした。すぐ離したが苗字さんは何をされたか一瞬、理解できずにいてわかるとぼっと顔を赤くする。
「何、してんの!風邪、うつっちゃうじゃん……」
苦情を言うわりに嬉しそうな表情を浮かべる苗字さんに俺は優しく笑いかける。
「ありがとうございました。授業、頑張ってください」
「……うん」
苗字さんは小さく頷いてそのまま保健室から出ていった。最後まで可愛かったななんて思いながら俺は保健室のベッドに入って眠りについた。
後日、次は苗字さんが風邪をひいてしまった。
「絶対、国見君のせいだよ!ばかー!」
「じゃあ俺に風邪うつしてもいいですよ?」
そう言うと苗字さんは顔を赤くして目を逸らした。そして保健室に連れて行かれた時のように腕を引っ張りながら人気の無いところに連れていかれる。そのままネクタイを引っ張られて、唇が重なった。

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